「和葉ちゃんまで時間を止めて欲しくないの。
あなたにはあなたの人生がある。
……そうでしょう……?」


力なく笑うお母さん。

ねえ正輝。
何をしているのよ。

キミが倒れてから、お母さんはずっと心配をしているの。
自分事の様にずっと苦しんでいるの。

早く目を覚まして、安心させてあげてよ。

ぎゅっと正輝の手を握って。
そっと手を離した。


「お母さん」

「和葉ちゃん?」

「私、学校に行きます」

「そう……よかっ……」

「でも!私は正輝を諦めません。
彼は必ず目を覚ますから。
だからお母さんも諦めないで下さい。
信じてあげてください」


お母さんに深く頭を下げる。
今、私が出来る事。
それはキミを信じる事だけだよね?
私は揺れる視界の中で正輝を見つめた。
それからすぐにお母さんに視線を戻す。


「それに……正輝がいない人生は……。
私には考えられません。
彼が起きないんだったら、私の時間は動かないです。2度と」

「かずは……ちゃんっ……」


さっきまで泣いていなかったお母さんの目からは大粒の涙が流れ落ちた。
必死に堪えようとしていたけど。
止まる事はなく溢れ出す涙。
それを見ながら、私はそっと笑みを浮かべた。


「泣いたっていいんです。
正輝が起きたら一緒に笑顔で迎えましょう!」

「……うんっ……」


何度も頷きながらお母さんは『ありがとう』と呟いていた。