「……正輝……」


正輝が病院から自宅に移って1週間が経った。
でもキミの目は固く閉じられたまま開く事はない。

あの時。
教室で、病室で見た時と全く同じ穏やかな顔でキミは眠っていた。

変な機械からも正輝は解放されたのに。
いつまで経っても目を覚ましてくれないんだ。

毎朝、制服を着て、正輝の家に行くことが日課になっていた。

正輝のお母さんは私を嫌な顔1つせずに温かく迎えてくれる。

お母さんと比べてはいけないけれど。

同じ哀しみを持つ私たち。
いつまでも眠たったままのキミを一緒に待っていたんだ。


「和葉ちゃん……そろそろ時間じゃない?」


下のリビングにいた正輝のお母さんが、正輝の部屋へと私を迎えに来てくれる。
でも、私は静かに首を横に振る事しか出来なかった。


「でも……」

「正輝の傍にいたいんです。迷惑なのは分かっています。
でも……お願いしますっ……」


このやり取りは正輝が倒れてから毎日続いていた。
正輝が倒れてから、私も学校には行かなかった。
病院にいた時は病院に。
家に戻って来てからは家に入り浸っていた。
お母さんはいつもそれを受け入れてくれたけど、今日は違った。


「……和葉ちゃん。
あなたはちゃんと学校に行きなさい?
正輝の分まで精一杯に生きて……」


その言葉に私は愕然とした。
驚きの声すらも出なくて視線だけをお母さんに向ける。


「だって……もう……正輝は目を覚まさないかもしれないのよっ……。
いつまでも期待をしてたら……余計に哀しいじゃないっ……」


お母さんの顔はすっかりと疲れ切っていた。
その顔には涙すら浮かんでなくて。
でも、目は重たく腫れているのが分かる。

正輝が倒れてから。

どれだけ涙を流したのだろう。
どれだけ寝ていないのだろう。

それくらいお母さんの精神はやられていたんだ。