嘘つきの世界で、たったひとつの希望。

始業式から1週間。

正輝に大きな事を言ったけれど、結局何も変わる事はなく今日を迎えていた。


「おい!一ノ瀬!テメェ山本に謝ったのかよ!!」

「さっさと謝れよ!!」

「あーやまれ!あーやまれ!」


謝れコールが教室に響き渡る。
煩くて耳を塞ぎたくなるけれど、私が逃げる訳にはいかなかった。


「ちょっといい加減にしなよ!」


人混みを掻き分けて正輝の席へと駆け寄る。
しれっとした顔で座っていた正輝の隣に立ち、囲んでいた生徒を睨みつける。


「(また来た……白石も本当に馬鹿な奴だよな)」

「(早くこっちにつけばいいのに)」


頭の中に響く声にグッと歯を食いしばる。

相変わらず、私も正輝もこのクラスの浮いた存在で、皆から疎まれていた。
それ自体はどうでもいいけれど。


「(もうやめろよっ……止めてくれっ!!)」


皆とは違う声が一際大きく頭に響く。
それは山本くんの声だった。

あの日から、彼の苦しむ声がダイレクトに胸に入り込んでくるようになった。
だから山本くんがどれだけ苦しんでいるのかが痛いくらいに分かるんだ。


「山本!お前もなんか言えよ!カンニングなんかしてないって!」

「お、俺は……(したんだよ……だけど認められない、だって……格好悪いじゃねぇか!
プレッシャーに押し負けてカンニングした何て知られたら……!!)」


プレッシャー?
初めて真実に近付いた気がした。


「……格好悪くなんてない……」


思わず声に出してしまった。
クラスメートは意味が分からないと言った様に怒鳴るけれど。
山本くんは驚いた様に目を丸めていた。
いきなり、こんな事を言い出したらそうなるに決まっていた。
苦笑いを浮かべていれば、正輝が不意に私の手を掴んだ。


「……」


言葉はなかった。
でも、大丈夫、そう言われている気がした。