一体どういう事?
考える暇もなくクラスは騒がしくなっていく。


「山本!お前が1番ムカついているはずだろう!?
やってもいないカンニングをでっち上げられて!」

「いや……俺は別に気にしてないから……」


哀しそうな顔をしながら否定をする彼。
何かを抱えているなんてひと目で分かる。

カンニング事件は未解決のまま幕を下ろそうとしていたんだ。

学校の先生たちは正輝が嘘をつけない事を知っている。
だからカンニングはあったと心では認めているけれど。
山本くんは認めないし、学校の名前も傷つけたくない。
だから、誰も真実を明らかにしようとしないんだ。

でも、この事で1番苦しんでいたのは。
もしかしたら山本くんなのかもしれない。


「……」


彼を見つめて、ぎゅっと拳を握りしめた。


「(誰か……お願いだから助けてくれ……)」


誰にも分からない山本くんの気持ち。
それは私も同じだけど。
それでもあなたの声はちゃんと届いた。
哀しそうな、辛そうな、山本くんの声。
私に何が出来るかは分からないけれど。
このまま黙っている事なんて出来ないんだ。


「お、俺ちょっとトイレ行ってくるわ」


皆から逃げる様に教室を飛び出す彼。
私もそれを追うようにそっと抜け出した。


「山本くん!」


教室から十分と離れた所で彼の名前を呼ぶ。
ピタリと止まった足。
ゆっくりと彼は振り返って小さく口を動かした。


「……白石……」


自分の名前がこんなにも切なそうに呼ばれたのは初めてだった。
たったひと言だけれど、あなたの苦しさが全部、伝わってきたような気がしたんだ。