「兄貴が何かを隠してるって事くらい俺だって分かってたし。
言ったでしょ?俺は嘘を見破れるって」

「……だけどっ……」

「傍にいてくれただけで十分だった。
例え嘘でも同情しなかった兄貴が心の支えだった」

「正輝……」


キミの哀しそうな顔を見ると何を言ったらいいのかが分からなくなった。
歯を食いしばってキミを見上げるけど。
そんな私の頬を大きな手で包み込んで目を細めたんだ。


「だから、兄貴の本当の気持ちを知れて良かったって思う。
嫌われていても、憎まれていても、そんな事はどうだっていい」

「……」

「俺が兄貴と過ごした時間は偽りでも、確かにそこに存在はするから」


ああ、キミはどれだけ強いのだろうか。

真っ直ぐで、綺麗な瞳を見ながら私は小さくタメ息を吐いた。

大切な人に裏切られた。
私はそれだけで壊れてしまったのに。
キミは違った。
真実を知った今でも、キミはお兄さんの事を。
大切に想っているんだ。


「全く……アンタは人の事を気にしすぎだって。
俺なんかより……アンタの方が苦しかったはずなのに……。
何で俺の事で悩むのかなー……」


ぐっと引き寄せられた体。
キミの腕の中で静かに息をしながら目を閉じた。


「ただ……正輝を守りたかったの。
キミが私を守ってくれた様に……」


まあ、いらないお節介だったみたいだけど。
キミは私が考えていたよりも、ずっと、ずっと、強い人だから。


「俺は十分、アンタに守られてる。
和葉が隣にいれば、それだけでいいんだ。
だから……もう勝手な判断で俺から離れないで」


真っ暗な視界の中で、キミの声だけが響き渡る。


「……うん……」


逞しい胸板に体を預けながら。
小さく、でも、しっかりと頷く。