「やり直せますよ。
ちゃんと自分の気持ちと向き合って、正輝やご両親に本当の気持ちをぶつければ……。
何度だってやり直せます」


ぎゅっとお兄さんの手を両手で握りしめた。
彼なら大丈夫。
私はそう信じている。
お兄さんの事はまだそんなによく知らないけれど、でもそれだけは自信があった。
だって、この人は正輝のお兄さんだから。


「っ……俺は……」


俯いた彼は小刻みに肩を揺らしていた。
きっと闘っているんだ。
自分の心の中にある闇と。


「和葉ちゃん……俺っ……」


何かを決意した様に勢いよく顔を上げるお兄さん。
でもすぐに『うっ』と顔を歪めた。


「お兄さん!!」


苦しそうに、もがくお兄さん。
その姿を見て、お兄さんを呼ぶ事しか出来ない。


「離せっ!!」


落ち着いたと思ったらお兄さんは私の手を力いっぱいに振り払った。
その反動で地面に倒れこんでしまう。
そんな私を見ながら『あっ……』と小さく悲鳴を漏らしたが、振り払う様に首を横に振る。


「お兄さん……?」

「俺はやり直したいなんて思わない!!
正輝を傷付けたいだけなんだ!!どん底に陥れて2度と這い上がってこれない様に!!」


喉を鳴らしながら笑うお兄さんを見つめる事しか出来なかった。
それはお兄さんの本音じゃないでしょ?
本音なら、何で泣きそうな顔をしているの?
お兄さんは無理やり唇を引き上げて笑っている様にしか見えなかった。
プルプルと唇の両端が震えていて、笑う事を拒否している様に見えるのに。
彼は笑う事を止めなかった。
止めてしまえば、きっと彼は楽になるのに。
それでも止めないのは怖いからだ。
自分の気持ちと向き合う事が。
長年恨み続けてきた弟を許す事が怖いからだ。