それもそうだろう。
心で思った事なんて誰も覚えていない。

でも、私はしっかりと覚えている。

スゥッと息を吸って声と一緒に吐き出した。
あなたが言った全てを。


「『せっかく正輝が1人になったのに何でこんな女が傍にいるんだ』
『アイツは1人の方がお似合いだ。もっと苦しめばいいんだ、アイツの笑った顔なんて見るだけで吐き気がする』
『この女を俺が取れば正輝は傷つくだろうか?絶望で喋る事すら出来なくて上手くいけば死んでくれるかもしれない』
『消えてしまえばいいんだ正輝なんて』
『正輝なんて大嫌い、憎い、消えろ』」


次々と出てくる言葉にお兄さんは顔を歪めた。
どうやら心当たりがあるようだ。
こんな様な言葉をいつも、いつも、胸に抱いていたんだろう。


「和葉ちゃん……一体どうしたの?
(何だこの女!?何で俺の気持ちが分かるんだ!?)」


無理やり作った笑顔と声。
でも心の中では相当、驚いているみたい。

そんなお兄さんを見ながら私は目を細める。


「覚えていませんか?
これ、全部お兄さんが私の前で言ったじゃないですか」

「そんな事を言う訳ないだろう!?
思っても口に出す訳が……あっ……」


お兄さんは、しまった、という様に口を閉ざした。
そしてすかさず自分でフォローを入れている。


「いや、例えだから……想っている訳ない。
俺は正輝の事を本気で心配しているんだ、大事な弟なんだ。
(あんな奴を弟なんて思った事がない、消えてしまえばいいんだ)」


懲りもせずに心で本音を言うお兄さん。
あなたはそれで誤魔化しているつもりでも。
私にはさっぱり通じないから。


「『あんな奴を弟なんて思った事がない、消えてしまえばいいんだ』
……それが心配している人の台詞ですか?弟を大切に想っているお兄さんの言葉ですか?
……私にはそうは思えませんけど……」

怒りを隠して。
口角を無理やり引き上げて。
馬鹿みたいに笑顔を作った。