「事故の後遺症の事は知っています」

「え……」

「その話じゃないんです」

「じゃあ何かな……?(それ以外に何があるって言うんだよ)」


優しい声とは対称的に頭の中では少し苛々とした声が響き渡っていた。
そんなお兄さんを見つめながらニコッと笑顔を浮かべる。


「何で正輝の事が嫌いなんですか?」


オブラートに包む事もせず、直球でお兄さんに投げつける。
流石のお兄さんも驚いたのか、言葉を失くしたまま私を眺めていた。
でも、その数秒後、いつもと変わらない笑顔が向けられる。


「何言ってるんだよ?俺は正輝の事を嫌いなんてひと言も言ってないだろう?
何だよそれー正輝に聞いたのかー?
(どうしてそれを知っているんだ!?誰にも自分の本音なんて言っていない。
誰がどう見たって俺は正輝を心配しているように見えるはずなのに)」


余裕そうな笑みとは裏腹に焦った様な声が頭の中に響き渡る。
心の声を聞く度にどんどんと心が冷たくなっていく。
そんな気がした。


「正輝は何も言っていませんよ。
あなただけが同情もせずに自分に接してくれたと嬉しそうに話していました」

「そうなんだ。だったら何で?
(はっ……やっぱり人間は単純だな、ちょっと優しくすれば本当の気持ちなんて知らずに懐いてくる。
反吐が出る……正輝に懐かれるなんて御免だ……)」


表と裏。
両方の声が私に向けられる。

ごめんね、正輝。
私、お兄さんの事好きになれそうにないや。

表の顔が良過ぎる分、裏の顔を知った時の衝撃が強すぎて。
歯を食いしばっていないと、拳を握りしめていないと。
今にでもお兄さんを叩いてしまいそうになる。


「だって……お兄さんが教えてくれたんじゃないですか」

「え?」

「ほら……この前、正輝が病院の日に偶然会って……」

「ああ、あの日……。
でも俺は何も……」


お兄さんは考える様に腕組みをしていた。
でも、思い当たる節がないようだ。