嘘つきの世界で、たったひとつの希望。

「落ち着いて和葉、大丈夫だから」


キミは背中を優しく擦ってくれる。
そして私のたった少しの言葉で全てを理解した様に、真っ直ぐな瞳で佐藤先生を見つめていたんだ。


「俺は自分の意思を曲げれられないし、周りの人に迷惑を掛けてるって事も分かってます。
だけど、俺の事を分かってくれる人が1人でもいたらそれでいいから。
先生に理解をして貰おうとなんて思ってないし」

「な、何を言って……お前らさっきから変だぞ」

「別に普通です。
それと先生、自分の心の醜い想いをきちんと言葉に出すべきだと思う。
隠し続けても何の得にもならないし……。
じゃあ、もう説教を聞く気分じゃないんで、失礼します」


それだけ言うと正輝は私の体を支えながら佐藤先生に背を向ける。
後ろから私たちを呼ぶ声が聞こえてきたけれど。
それはすぐに聞こえなくなっていった。
ピシャリと閉まる扉の音が佐藤先生と私たちの世界を真っ二つに分けてくれるんだ。


「大丈夫だから」

「……ん」

「とりあえず教室に行こうか」

「……ん」


抜け殻みたいな私をキミは優しく抱きしめながら歩き続けた。
正輝の温もりに少しずつ乱れた心が落ち着いていく。


「……和葉」

「……なーに?」

「何でも」


キミはフッと頬を緩めるといきなり私の手を掴んだ。
驚く暇もなく走り出す。
手を繋がれている為、私も走り出す事になるけれど。
でも、何か気持ちが良かった。
何もかも吹っ切れる様なそんな感じ。
可笑しくなって『っぷ』と小さく笑い出せばキミは更に走るスピードを速めた。
体につく勢いも、パタパタと響く足音も、キミと私の笑い声も。
静かな廊下に小さく響いていった。