「手が止まってる」

「あ……うん」


正輝に指摘をされて勉強を再開しようと思ったけれど。
やっぱり集中が出来なくて。
タメ息を吐けばキミがゆっくりと私の方に顔を向けた。


「どうしたの?何か悩み事……?」


心配そうに眉を下げるキミに慌てて首を横に振る。


「違う違う!
早くあの海に行きたいなって思っただけ」


正直に自分の想いを言えばキミはホッとしたようにタメ息を吐いていた。

私と正輝がお互いの心の闇を明かしてから。
私たちの間には秘密はなくなっていた。
どんなに小さい事でも報告する様になったし。
お互いの僅かな表情の変化も気が付ける様なくらいになったんだ。


「なら良かった。
でも、海は暫く行けないね」

「えー」

「えーじゃないよ。テストだから仕方がないでしょ?」


キミは呆れた様に笑うと私から視線を逸らしてノートと向き合っていた。
それが少し寂しくて頬杖を付きながらキミを睨んでいれば『でも』と小さく口が動く。


「テストが終わったらすぐに行こう。2人で」


こっちを見る事はなかったけれど。
私の心の中はジワリと熱くなっていくんだ。

だって、必死に無表情を作っている見ただけど。
顔は真っ赤に染まっているんだもん。


「うん!約束だからね!」


キミの気持ちが嬉しくて満面な笑みを浮かべる。

自分でも単純だと思うけれど。
それでもいいかなって思うんだ。

キミと一緒にいられる事が何よりも幸せで。
自分の気持ちに素直になれるのがこんなにも嬉しい事だって初めて知ったから。

キミの言葉で浮き弾みする心。
でもそれは私が血の通った人間で、心が正常だって証だから。

だから自分に素直に生きたいんだ、私は。
せめてキミの前では。