「大丈夫……私は正輝を信じてっ……」

「信じるなって言っているんだ!!」


その言葉はあまりにも衝撃的だった。
信じるな、なんて今まで言われた事も無くて。
呆然としていればお兄ちゃんは私の背中を撫でる。


「お兄ちゃん……」

「彼がお前の何を知っている?
出逢ってたったちょっとで……和葉を理解出来る訳がない。
そもそも一ノ瀬くんは“心の声”を知っているのか?」

「それは……」


唇を噛みしめて力なく首を横に振る。
それを見たお兄ちゃんはタメ息交じりに言葉を放った。


「そうだろう……?
もし彼がそれを知ったら……どう思うんだろうな」

「っ……」


頭に響くのは『化け物』という声。
何も聞きたくなくて耳を塞ぎたいのにお兄ちゃんに抱きしめられているからそれも叶わない。
それ以前に耳を塞いだからと言って消えるものではないけれど。
強く唇を噛めばお兄ちゃんは私の頭を撫でてくれる。


「信じて貰えないかもしれない。
信じられたとしても、さっき俺が言った言葉を思わないとも限らない。
その時、お前は耐えられるのか?
傷つかないと言い切れるのか?」


お兄ちゃんの顔は辛そうな笑顔を浮かべていた。
そんな顔を見ると何も言えなくなる。


「そんな覚悟なら誰も信じない方がいい。
お前はそこまで強くないんだ」

「……」


それは私もよく知っている。
弱くて、情けなくて。
だけど。
キミが、正輝が。
私を変えてくれた……はずだった。

でも私は想像以上に弱いみたいだ。
お兄ちゃんのひと言で心が揺らいでしまう。


「お前には俺がついている。
だから、もう誰も見なくていい。
傷つかなくていいから……」


お兄ちゃんの声が私の壊れた心を締め付けていくんだ。