嘘つきの世界で、たったひとつの希望。

綺麗な青だった空が薄暗く変わってきた時間帯。
見慣れた一軒家の前でウロウロとする。

時間が止まればいいと何度願っても。
結局そんな願いが叶う訳もなくいつもと同じ様に帰らなければいけない。


「仕方がない」


ハァとタメ息を吐いてドアに手をかけた。


「……ただいま」


小さく呟いて家の中へと入る。

鼻を掠める匂いも目に入る景色も。
小さい頃から変わらないモノだった。

リビングへと入ればソファーでテレビを観ているお父さんとお兄ちゃん。
キッチンでご飯の準備をするお母さんが目に映った。


「お帰り、和葉」

「ただいまお兄ちゃん」


短めな黒い髪は爽やかな顔立ちを際立出せていた。
身長もずっと高くて、優しい笑顔を浮かべるのは私のお兄ちゃん、和翔(かずと)。

8つ年上のお兄ちゃんはもう社会人だけど、まだこの家に住んでいた。
多分それは私を心配してだろう。


「お帰りなさい和葉、ちょっと手伝ってちょうだい!」

「うん」


キッチンの方から聞こえるお母さんの声に私は軽く返事をする。


「テーブルを拭いて来てくれる?」

「うん」


お母さんから布巾を受け取る時に視線が交じり合ってしまった。


「よろしくね。(まったくこの子は手伝いもしないで遊び歩いて、和翔もお父さんも全く手伝わないし)」

「っ……!!」


頭の中に入ってきた声にピクリと肩が揺れた。


「どうしたの和葉?(変な子ね、さっさと拭いてきなさいよ)」


心配そうな顔の裏に潜む闇の声。
それはダイレクトに私の頭に入ってきた。


「っ……」


それから逃れる様に布巾を握りしめてテーブルに向かう。