狼な彼と赤ずきん

「食い殺す?お前を?」



狼はきょとんと首をかしげて私を見た。


なぜそんなことを言われるのか分からないという顔だ。


十年前のあの約束など、忘れてしまったのだろうか。



「そうよ。私を今すぐ殺してほしいの」



再度、彼を正面から見つめる。


彼はしばらく思案するように空を見上げ、それから困ったように頭を掻いた。



「あー。つまり、あの時の俺の言葉を覚えてたのか」



どうやら、約束を忘れたわけではないらしい。


それなら話は早い、と私はフードを脱いだ。


狼がどうやって人を襲うのか知らないが、この方が殺しやすいはずだ。



「いや、待て待て。俺は何もそのつもりで言ったわけでは……」



顔の前で両手を手をぶんぶんと振る狼。


私は眉を寄せた。


そのつもりではない、とはどういうことだろうか。


あの時の言葉は嘘だったのかと怪訝そうな顔をして狼を見上げると、彼は何かをごまかすように一つ咳払いをして、私の前に手を差し伸べた。



そう、十年前のあの時みたいに。