「婆さんが死んだくらいでくよくよしてんじゃねえよ」



私に冷たくそう言い放ったのは、騎士団長の息子のアドラン。


短い黒髪に赤茶色の瞳をした彼は、顔が整っているため街の女性達に人気のようだが、私はその本性を知っている。


まるで冒険小説に出てくる悪の手下のような、性格の悪い男なのだ。



彼は私の家から数キロ離れた貴族街に住んでいる。


本来であれば関わりを持つはずのない身分。


しかし五年ほど前、学校がどのような場所なのか興味を持ってこっそり覗きに行った時に出会って以来、彼はことあるごとに私を訪ねてはいじめるようになったのだ。


同年代だからからかいやすいのだろう。


身分の差ゆえ、これまでは言い返すこともせずずっと耐えてきたが――。



「そんなに泣いても婆さんは戻ってこねえよ。それともお前、婆さんのところにでも逝くか?」



馬鹿にしたように告げられたその言葉で、私の心の中の何かが決壊した。



「分かったわ!私が死ねばいいんでしょう!」



そして、私は祖母と暮らした思い出の家を捨て、森に向かうことにしたのだ。


十年前の約束通り、もう一度森に迷い込んで狼に食べられるために。