乱暴な言葉とともに差し出された手。


見上げれば、涙でかすむ視界の中に自分の体より数倍大きい狼男がいた。


まあ、今思い返してみれば彼もまだ10代の少年だったんじゃないかと思うけれど。


獣人は乱暴で野蛮――そう言い聞かされてきたが、不思議と恐怖は感じず、私は彼の手を取って立ち上がった。


口調こそ荒いものの、その目がとても穏やかで優しかったからだろうか。


彼の存在はまるで、薄暗いこの森に差し込む、一筋の光のように思えた。



今でも、その手が意外と暖かかったことを覚えている。



彼は赤いフードをかぶった私のことを「赤ずきん」と呼び、「さらさらな金髪が可愛い」とか「宝石のような目をしている」などと褒めて、お喋りしながら森の出口へ案内してくれた。



「まったく、今回は見逃してやるが、次迷い込んだら食ってやるからな。覚えとけ」



別れ際、冗談めかした彼の言葉が、私はなぜか忘れられなかった――。