私の耳はまだ深く深く眠ったまま。
だから私は手で喋る。
まだ時々家族と笑い合ったり、友人とファミレスでお喋りする夢を見たりするのに、目が覚めるとそれは紛れもなくいつも夢で、そして過去だ。
けれど、このまま私の耳は覚めなくていいとも思っている。
なぜなら、面白いことに音を失ってから、太陽が強く差す時の音、雲が流れる時の音、木がなびく時の会話、花が揺れる時の歌、ちょうちょが舞う時のお喋り、シャボン玉が飛ぶ時の声が、聴こえるようになったからだ。
私は今を、今の私を生きる。
そしてあの時止まったと思っていた季節は、確かに巡っているのだ。