かつてはシンガーソングライターを目指していた私。
カラオケに行く度に落ちる精密採点の点数を確認しては、自分が本当に少しずつ違う世界へ足を踏み入れようとしていることを感じていた。
一緒にコンサートを開こうと約束を交わした友人もいた。
なにがあっても変わらないと信じていた友情もあった。
私を支えていた柱みたいなものが、ちょっとずつメキメキと音を立てて傾いたけれど、それからは目をそらしていた。
夢、希望、憧れ。
そんな大それたものばかりじゃなく、目の前にある目標や目的、友人や家族まで失いそうなこの問題を、直視できなかったのだ。
人目ばかり気にしたあの時の私は、自分の耳が自分のものではないように思えた。
耳鼻科にきちんとかかって気づいた時には120デシベル。
もう疑う余地もなく、私はほとんどの音を失っていた。
ブーン、ゴー、シューシュー、ジャブジャブ、コンコン、コトコト、シャラン、ピーッ、ガタンゴトン、ポッポー、チュンチュン、サー……。
当たり前だったはずの効果音が、浮かび上がる文字でしか思い出せなくなってきていた。
そして、私は音のない世界へ両足でジャンプする決意をした。
メソメソするために振り返ることはしないと、決めたのだ。