最初に私から奪われたのは夏だった。
この年、私にセミは喋りかけなかったからだ。
ただ、風鈴が揺れていたので、私以外には確かにそれは訪れを告げていたのだとわかった。
受け取れなかったのは私なのだと。
今となってはミーンミーンという形容が正しいのかどうかも定かではない。
そして秋もやって来なかった。
落ち葉の上を大袈裟に歩いても紅葉は黙り込んでいて、スズムシはまるで絶滅したみたいだった。
ただ冬になると、不思議と雪はやけにお喋りに見えた。
小さく白いヒラヒラが、楽しそうにワルツを踊っていたのを覚えている。
そして、街を行き交う人々の会話や野外ライブの歌が白く目に見えたから、私はすっかり長い眠りから覚めたお姫様気分だった。
けれど次の春、やっぱりウグイスどころかスズメまでが私を知らんぷり。
毎年喋りかけてくれるはずの「おともだち」が、なぜ私を見て見ぬふりするのか、私にはわからないようでわかり始めていた。