お嬢様と執事の不器用なちょっとした話

「私には、家族も友達も社員もいるわ。だけど、私の世界は、最初から庵だけなの。どれだけ大切な人達がたくさんできたとしても、庵が居ないなら私の、錺禰纏の世界は意味を成さない。私にとって庵は、そういう存在なの。」



家を空けていた父親より早くに亡くなった母親より、纏の世界にはいつだって庵がいたから。



「……そう言っていただけて、執事としては」


「執事としてではないわ!」



一瞬間が空くも執事として答えようとする庵を、強めに否定して纏は遮る。



「お父様がいなくても、お母様がいなくなっても、寂しかったけど庵が居たから私は!……私は………!」



あまり見せてこなかった本心を、纏は上手く言えないながらも伝えようとする。



捗拵の言ったお話するとは、纏に庵へ本音を言ってもらうことだった。



友達と喧嘩した時なんかは、祖父に話を聞いてもらいながら話している内に、自分も悪いところがあったと謝る気になったり、大切な友達なんだと気づいたりした。


だから、普段一歩以上引いて接している2人も、纏がそうすれば庵の堅い決意も崩れると思ったのだ。



今まで言えずにいたであろう、寂しいや愛しいを全部。