キラワレモノ

僕は脇目も振らずに部屋に戻った。
誰も信用できない。したくない。

涙をグッと堪え、下唇を噛み締めながらお気に入りのカバンに必要最低限の荷物を詰めていく。

「くそ、絶対許さねぇ、あいつら」

怒りがこみ上げ、殺意すら湧いたが、殺す勇気もない。
今の自分にできることは、ただ逃げることだけであった。

『カンッ」
肘に何か当たって、金属音が響いた。
「なんだ?」
その音の正体は、自分で先日買った護身用ナイフだった。

「あぁ、これ。持って行こうかな?」



「お兄ちゃん?」
ビクンッと体が跳ね上がり、心拍数が一気に上がるのが分かった。

「‥‥彩」
「お兄ちゃん、どうしたの?そんなに汗かいて」

「な、なんでもないんだ。彩」

10年間一緒に育ってきた妹の顔が、まともに見れない。

「お兄ちゃん、好き」
彩は僕の体をぎゅっと抱きしめた。

こんな顔して、あんな恐ろしいことを考えていやがる。信用できない。何もかも。

「ぐガァッ!!」

その瞬間、彩の口から鮮血が溢れる。

僕の右手のナイフは、彩の腹部に深々と刺さっていた。