「あぁ…わざわざ。どーもね。」

あたしは男から手帳を受け取る。

男であたしに怖がらない人って初めてかも。

しかも、この部類の人間とか前代未聞。

誰が予測していただろうか。

奈津とかに言ったら

『お前みたいな陰キャしてるやつが

気安く桜良さんに近づくな!』

とか、言いそうだけど。

「じゃあ、僕これで帰りますね。」

「あ………ちょっと待って!」

あれ…あたしなんで引き留めてるんだろう。

「名前とクラス、教えてくんない?」

スラッと出た言葉。こういうの言うとだいたい

あたしがクラスにリンチしに来るって

勘違いされるんだけど…やっちゃった!?

ただ、素直に知りたいだけなんだけど。

その男はポカーンとしてあたしを見ている。

あー、これ、勘違いされてるな。

「2年3組の横原仁人(よこはら じんと)です。」

って、また、笑顔でそう言うんだ。