相変わらず絵のアイデアが見つからないので、屋上にでも出てスケッチをしようかと考えていた。
というのも、屋上は何だか気持ちが楽になる。こんな息苦しい美術室を早く出たかった。
そう考えていた矢先、先生と美術部の部長が何かを話している所が目に入った。
私は、2人のやりとりをじっと見つめていた。

「あ、そうだ。笠井君が今どこにいるか分かるかしら?」

「あー、たぶん、いつもの空き教室に居ると思いまーす」


笠井尚先輩。私より2個年上の3年生。
美術部の部員は皆、主に美術室で活動するのに、笠井先輩だけはなぜか一人だけ空き教室で絵を描いている。
笠井先輩だけ特別なようだが、誰も気には留めていない。先生も他の部員も、好きにしろと言った感じだろう。
だから私は笠井先輩の顔も、どんな人かもよく知らない。


美術室に全く来なくて、一人空き教室で絵を描く笠井先輩。
不思議な人だな、と思った。でも、先輩なりの世界があって、自由で、それも良いなと思う。

一体、笠井先輩はどんな人なんだろう?

いつしか私は心の隅で、笠井尚という先輩の事が、気になり始めていた。