──(あれ、お母さんどうしたんだろう...)
いつもなら、すぐに電話を切っちゃうのに。
稀胡がそんなことを考えていると、不意に母親が言った。

『・・・うそ・・・もうそんなことに......?』

母親の声はすごく小さくて良く聞き取れなかった。
しかし、母親は電話を勢いよく置くと、こう言った。
「稀胡!ちょっとおいで!」
父親が死んでから初めて聞いた、母親の明るい声だった。
わたしはすぐに母親のところを追いかけた。
「また、お母さんの元気な声が聞けて良かったなあ」
稀胡はそう思っていた。

母親はドタドタと階段をあがっていった。それに続いて稀胡もあがっていくと、母親が小さな木箱をもって立っていた。

「・・・稀胡、これはね。お母さんの宝物なんだ」

そうして、母親はその宝物についてを語りはじめた。