──わたしは家が嫌いだ。

家には、誰ひとりいない。
学校から帰ってきてから、『おかえり』と言ってくれる人がいない。
わたしがただいまを言っても、かえってくるのはただの沈黙だけ。

わたしの父親は、わたしが小学校3年生の時にバイクとの衝突事故で亡くなった。

──そこからだった。
なにもかもがうまくいっていた、明るくて楽しくて大好きだった家の歯車が──狂い出した。

母親は悲しみのあまり、笑うことがなくなり、ご飯もろくに食べず、日に日に弱っていった。
わたしにとって、大好きだった母親が弱っていく姿を見るのがとても苦しかった。

──なにも力になってあげられない自分が嫌いだった。

事故からおよそ半年が経ったとき、家に一本の電話がかかってきた。
母親は電話をとったものの、なにも言わずにただただ相手の話しを聞いていた。