ジリリリリリリリリリリリリリリ

「んー…」

先輩……。
待って。

朝から静寂を切り裂いていくアラーム。

すごいもどかしい…。
夢?現実?どうか夢であるように。
っていうかアラームが鳴るってことは夢か…

あ、起きなきゃ…
そうは思うものの思うまで、全然動けない。

「先輩…」

「こっちだよ」

もどかしい追いかけっこはまだ続く

早く捕まえて終わりにしたいのに終わりにできない。

それからまた少ししてアラームが鳴り響いた。

なんで?
いま鳴ったばっかりやのに。

薄く目を開けると強い日差しが私の目の奥まで入ってくる。

ん?今日は何時起きやっけ?

5時起き。

今日は何月何日?

今日は4月の5日。
春になったばっかり。

え?こんなに眩しいのなんか変。

枕元にある私の好きな人が誕生日プレゼントにくれた
かわいいクマのぬいぐるみカバーのついたアイフォンの画面を見る。

4月5日充電は100%。

うん、何の問題もない。

現在の時刻は


≪8時≫


とても、問題ありどころの話しじゃじゃなかった。

ん?
今日の私は何時に起きなきゃダメなんだっけ?

5時。

理由は?

先輩に初めてお弁当を作るために。

で、いま何時?


≪8時≫


「えーーー!!!!!!」

朝から発狂。
いきなりの大声に喉が潰れそう。

私は急いで部屋を出た。
廊下はまだ冷たくて足の先から体が冷えて行く。

「ひっくしょん」

誰かが噂してるのか?

先輩ならいいけどじゃなくて。

リビングに入ろうとしたときお姉ちゃん
が扉をしめたせいで思いっきりリビングのドアでおでこを強打。
絶対に鳴っちゃいけない音が鳴った。
私はおでこを抑えてその場にしゃがみこんだ。

「いったぁぁぁぁぁあい!!」

私の声にお姉ちゃんは急いでドアを開けて私を見るや否や

「ようやく起きた?」

そういったんだ。

起きた?じゃない。

「なんで起こしてくれなかったのさ!」

「澪?私に怒るのは間違ってるよ。私なんかい起こしたと思ってるの?」

そんなの…寝てたから……知ってるわけないじゃん。

「知らない」

私は立ち上がって椅子に座った。
お母さんは私にコンポタージュを温めて入れてくれた。
私は急いで食べようとするけどなんせ猫舌だからなかなか食べられない。

「今日の星座占い」

ついてたテレビがそういった。
私は釘つけになってテレビの画面を眺めた。

「おとめ座は…」

今日のおとめ座は12位。

うん、でしょうね。だと思っていました。

私はポタージュを覚ましてる間に急いで今日の準備をして制服に着替えた。
ピンクのカッターシャツは昨日洗濯に出したばかりで今日はないから
仕方なく白色のカッターシャツ。
スカートはいつもみたいに5回折ろうとしたけどなんか今日はうまく折れない。
茶色のセーターはお姉ちゃんが来てしまってるか
ら今日は地味な紺色のセーター

。はぁ、全然かわいくない。
なんで私がそっちきたかったのにいつも紺色を着てるのはお姉ちゃんなのに
なんで今日は茶色のセーターとっちゃうんだろう。

朝からついてなさすぎて自然とほほを涙が伝う
。時間はもう8時20分。

焦りは徐々にいらだちに変わる。

しぶしぶリビングにもどってポタージュを食べようとすると
冷めすぎてて少し冷たかった。

8時40分私は家を出て自転車に乗り込んだ。
リュックは前の籠に入れて。

先輩がくれたマスコットキーホルダーが揺れる。

4月頭ようやく春になったこの街に服風はまだまだ全然冷たくて。
春は好きだけど寒いのが唯一の欠点。
でもこんなまだ冬の残る街にも冷たい風に乗って春の甘い匂いが届く。

信号に引っかかったところでケータイを確認するとやっぱり先輩から
10件のメッセージと2件の着信があった。

何回も起きてる?と最後に先に行くぞ。って

「今日は先輩に逢えないのかな…」

学年も違えば教室のあるフロアーも違う。
授業だってもちろん違う
。学校の中で会えたら奇跡って思えるほど。
また急に涙が頬を伝う。


私の好きな人。
日向狐夏先輩。

いまは私と同じ高校に通っていて1つ上の先輩。

中学からずっと一緒。

私はまた1年はじまる毎に楽しみと幸せを覚え

毎年終わるごとに1年学年があがるたびに恐怖を覚えた。

だって一つ学年が上がってしまえばさよならに近づいていくから。

そんな恐怖を覚えてもう4回も一人の冬を迎えて暖かい春を迎えた。

そんな恐怖を今年はなんだかいつもよりもはっきりと濃厚に覚えている。

日向先輩は170もないくらい。

視力は悪め。

そこまで高いってわけではないけど私と頭一つ分ほどは離れている。

髪の毛はさらさら。

襟足が肩まであるかないかほど。

色素が薄いから目と髪は茶色いし肌は白い

体系はどっちかというと細め。

ひょろいわけではないかな。

私の中の先輩はかっこよくて、かわいくてお兄ちゃんみたいな感じの人。

先輩を動物に例えたらウサギと犬?かな。

なんとなく。

先輩の誕生日は1月9日。血液型はO型。

性格は心許した人にはたまに弟っぽい一面を見せる。

先輩のことで分からないことなんて特にない。
昨日の先輩が食べた晩御飯はエビフライ、白ご飯、お味噌汁
好きなご飯は冬に食べるお鍋。

なんでここまでわかるかっていうのはご飯食べ終わったくらいで
いつもなに食べたって来るから。
で、冬はほとんどお鍋の話でいっぱいだから。

先輩に恋をして、この恋心を隠してもう4年。

出会い方はどこかのドラマで見たような少女漫画でよくあるような感じ。

私とか先輩が通ってた中学はなんかすごい無駄に広くて
学校の中で迷子になってる時に日向先輩に助けてもらった。

迷子になってる途中ころんじゃって右の膝を思いっきりすりむいていた。

私が泣いていたとき

「大丈夫?」

って声をかけてくれたのが日向先輩だった。
私はその声に驚いて顔を上げた。

そしたらおでことおでこがぶつかって
このまま話出せば事故が起こってしまいそうなほどの距離で。

先輩は私の手を掴んで起き上がらせてくれて
少し距離を開けて私の顔を覗き込んで

「1年生だね、名前は何て言うの」

って優しい声で聞いてきた。

私はあまりにも整ってる先輩の顔になんか緊張して

「櫻井澪です」

俯いて小さい声で答えた。

「あぁ!」

って先輩はなにか思い当たったような感じで

「1年5組の櫻井澪さんね」

そういって私の手を静かに繋いで案内してくれて体育館の中に入って行った。
私は数人の視線を感じて怖くなって体育館の端っこ下を向いて歩いた。

先輩は隣の席に座った
私は緊張と少しの恐怖でカバンをぎゅーって握ってたら先輩が

「大丈夫だよ」

って言ってくれた。
その時に幼い心臓にドキッて耐えられないほどの強い刺激を覚えた。

私の人生初めての所謂初恋が始まった。
それから私は長い長い眠気を誘う話をほかの新入生の混じって聞いてた。
校長先生らしき人が「生徒会長、日向狐夏」って
この学校の生徒会の会長の名前を呼んだ。

そしたら…

「はい!」

って少し高めの声。
隣にいた男の人がさっき私のことを助けてくれた先輩が立って舞台に上がって行った。
私は舞台に立つきらきらして優しい表情をした先輩をただただ見つめていた。

そんな尊敬のまなざしはいまは遠くいまじゃ

「なんなんですかぁ!」

とか言ってじゃれあう仲。

望んでた。
こうやって毎日大好きな人のそばにいてじゃれあって
なんの壁もなく接することができる過去の彼女さんとか
同い年の人とかいろいろ、羨ましくって
先輩は社会が大好きだから、きっと共通の話ができればもっと近くで
先輩の話を聞けるんじゃないかっておもって頑張ったんだけど…
中学3年の秋、冬直前もうマフラーが必要になった時に気付いたんだ。

この友達の関係は誰よりも見える距離からすれば近いのかもしれないけど
心の距離は遠いってこと。

何回も離れようって考えた、わざと未読無視をしようとも考えた。
でもできなかった。

やっぱり私のこの距離から先輩が消えてしまうなんかできなかった。
だって私は弱虫だから。

はっと気づいたら私はいつもの坂の上にいた。
先輩のことを考えてるだけで時間は魔法にかかった勢いで過ぎていく。

私は

「大丈夫」

そう言い聞かせてブレーキをぎゅっと握って坂道を下り始めた。

そういえばブレーキの調子おかしいんだっけ。
だから昨日の夜先輩に電話して恥ずかしかったけど
勇気出してちゃんと私の言葉でお願いしたんだっけ。

「自転車のブレーキいま効きにくくって
怖いから明日先輩の自転車の後ろに乗せてくれませんか」

って。
もし今日寝過ごさなかったら先輩の特等席に乗せてもらえたのに。

会いたい。

先輩のことを考えるのは幸せなはずなのにこんなにも胸が痛い。

私を載せた自転車はゆっくりゆっくり下っていく。

どうかこのまま何もないように。
そう願いながら。

でも本当は…先輩に逢いたい。

そんな思いが9割方占めている。

≪ガシャン≫

坂の途中嫌な音が聞こえた気がした。
だんだんと向かい風はきつくなっていって
私はうまく息ができなくて思わずハンドルを握ったまま俯いた。

ん?

……ブレーキが効いてない?

まるでネコが威嚇するような音が耳に飛び込んでくる。

あ、ブレーキ壊れたって何も言われなくても今体全体で感じてる。

ふと前を見るとそこはもう交差点。
信号は変わって赤。

優しい青じゃなくて血の色の赤。

私はこの瞬間一気に悟った。

≪あ、あたし死ぬんだ≫

こんな時私は恐ろしいほどに冷静沈着で
何にも怖いとか思うときにはもう交差点に突っ込んでいた。