「よかったらあげ、いや紹介しよう…」


「果奈さんの婚約者です」


思わずあげようかと言いかけ、言い直した言葉に、被せるように掻き消され、おまけに口を手で塞がれ羽交い締めにされてしまった。


けれど。
不覚にも、やたら良い匂いがして、咄嗟に振り払えずにいた。


嗅いだことのない、男性用の香水みたいな、ふんわりした、柔らかな、柔らかな。優しい香り。


こいつからは決して想像のつかない、似合わない香り。


―――良い匂い。


ドサッ、と後ろで音がした。


「……こんやく……」


「げっ…」


首だけ振り向く私。


布勢くんだ。
店の入り口で言葉をなくして突っ立っている。


おそらく持っていた段ボールを、足元に落としてしまっていた。


聞かれた。
いや、見られた。


「おや、君はこの前の」


羽交い締めにしたまま振り返る先生。
得意のとろけそうな笑顔で、


「そういうことです。以後お見知り置きを」