***


あのとき見かけてから、なんとなく気に食わない男だった。
高居のカルテを見ながら、神崎はペンを回す。


まさかこんなところで居合わせるとは思いもしなかったが。


なんとなくマスコット的な可愛い人だし、受け答えもしっかりしてくれる。わからないことは調べてくれたり聞いてくれたり。


いい加減な答えは返ってこない。
自転車のことなんて、ましてやロードバイクのことなんて、女子に聞いてもわからないだろうと高をくくって話しかけてみたのが最初だった。


今どきしっかりした、一生懸命真面目に仕事に取り組む姿勢が好印象だった。


布勢くんならまだしも、あんな高飛車そうな俺様男に。あんな男と付き合うなんて。


いや、むしろ付きまとわれているようにしか見えない。


「……少し意地悪してやるか」


「先生??何か仰いましたか??」


部屋に入ってきた看護師に声を掛けられ、


「いや、なんでも」


口角を上げて微笑んだ。