「ははっ…。シゲは全部お見通しだねっ。実はね…、小林さんがこの前ごはんに誘ってくれたんだ。その日、私が仕事で失敗しちゃってね…。それで私がすごく落ち込んでいたら、小林さんが私が好きなお好み焼きをご馳走してくれて…。」
桃は切ない顔で不器用に笑いながら
遠くを見つめていた。
「それで…?」
「……うん…。その帰りに告白された。結婚を前提に付き合って欲しいって…。」
は?なんやそれ。
あの小林とかいうやつ
頭おかしいんちゃうか?
「…それで、お前はアイツと付き合うんか?」
「えっ…?」
「せやから、アイツと付き合うんかって聞いてんねんっ!!」
俺はハッキリしない桃にイライラして
思わず怒鳴ってしまった。
「こ、怖いよ…シゲ。」
「ご、ごめん…。ちょっと強く言い過ぎた。…桃はアイツのこと…好きなんか?」
「うん…。それがね…まだ分からないの…。私、ずっとシゲと一緒にいたから、恋とか付き合うとかよく分からなくて…。」
「……な…や。」
「えっ?何か言った?」
「あ、あんなヤツと付き合うなやっ!」
俺は熱くなって
思わず桃の腕を引っ張って
自分の胸に桃を引き寄せた。
「ちょ、ちょっと!」
ードンっ!
桃はとっさに俺を突き放し
俺に冷たい視線をぶつける。
「なんで…?なんでそんなことするの?……今日のシゲ…おかしいよっ。そんなシゲ…見たくない。」
「おかしいのはお前や!!なんで、そんなようわからんヤツ相手にすんねん!」
俺は腹が立って桃の腕をガシッと掴んだ。
「…っ!小林さんは良い人だよ!シゲの方こそ小林さんのことよく知りもしないくせに、どうしてそんなこと言うの?!」
桃は目に涙を浮かべ
俺を睨んだ。
「俺はお前のこと思って言ってんねんで?!なんでそれが分からんねん!」
すると
桃は下唇をグッと噛み
腕を掴む俺の手を振りほどいた。
「私が誰と付き合おうが、シゲには関係無いでしょ!!…それとも何?シゲが私の特別な人だとでも言いたいわけ?!」
「…っ。」
俺は意地と恥ずかしさからか
何も言えずに言葉を失った。
「私はシゲが分からないよ…。ずっと一緒にいるのに、最近のシゲはスゴく遠くにいる気がして仕方ないんだよ…?…ねぇ…、シゲにとって私って何?」
「そっ…それは…。」
ー好きだよ。
ただその一言が出て来ない。
ーかけがえの無い存在。
っくそ…
どうして言葉が出て来ないんだよ…。
「…もういい。」
「もっ、桃!!」
俺に背を向け歩き出そうとする桃の手を
慌てて引いた。

