まずは片瀬さんと仲良くなる所から始める

これが夏休みまでの目標だ

あたしは運命共同体となった
白石さんと茅野さんとLINEを交換して
別の方向に帰る白石さんに挨拶をし
茅野さんと帰る

意外に家が近い事が分かり話が弾んだ

変な事に巻き込んじゃってごめんね

いえ、大丈夫です

じゃあここだから!
茅野さんはマンションの前で立ち止まる

あたしは茅野さんに挨拶をして家路に着く


そういえば、なんで茅野さんも‥

先輩らの考えてる事なんてあたしには
分からないので、ふと浮かんだ疑問を
すぐに打ち消して明日の片瀬さんに関する
シミュレーションを考える


あたしはこの頃本当に運がよかった

自分が考えて行動する前に向こうから
飛び込んでくるぐらいだった


次の日休み時間を利用して行動を起こそうと
していたあたしより先に片瀬さんの方から
話かけてくれた


真山さんてバスケ部なんだよね?

あたしが机に突っ伏してシミュレーション
している所に来たので妄想かと思った

へ?

多分あたしは凄く間抜け面で答えたと思う

あ、うん!そうだけど‥

〈なんだいきなり?テレパシーか?

私も部活入ろうかなーって悩んでて
バスケ部ってどうかな?って思ったの
このクラスでバスケ部なの真山さんだけだし

そう言いながらあたしを見下ろす顔も
やっぱり可愛い

〈ああ、そうだわな!あたしに興味が
ある訳ないもんね

でもあたしはこれがチャンスだと思った
わざわざ相手が来てくれたのに
逃すはずがない
顔を上げて片瀬さんを見る


あ、じゃあさ今日部活見学に来る?
〈食いつけ!!お願い!

えっ?いいの?

片瀬さんはびっくりした顔になる

〈よし!この顔も可愛い!

うん!もちろん!
あたしはめいっぱいの笑顔で言う

行く!

あたしの笑顔につられたのだろうか
片瀬さんの笑顔の後ろに花が見えた

キュン死にしそうだった


第1ミッションコンプリート
あたしは仲良くなるをすっ飛ばし
部活に連れて行く事に成功しました


片瀬さんが席に戻るとあたしはすぐに
白石さんと茅野さんをグループに入れ
LINEをする

片瀬さんが部活見学したいそうです
今日連れて行きます
よろしくお願いします


既読はすぐにつく
白石さんからアイスを奢って貰える事になった

仕事が早いと茅野さんに褒められた

あたしはテンションが上がった

おかげで後の授業になんの苦痛もなかった

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授業が終わってすぐに片瀬さんの席に行く

部活見学の事、先輩に連絡しといたよ

片瀬さんは相変わらず可愛い笑顔で
あたしにお礼を言う

ありがとう!


そのまま2人で教室を出て体育館に向かう
こんな風に2人で歩けるなんて夢じゃないのか

片瀬さんは嬉しそうにあたしに話かけてくる

私、背が小さいから‥

その言葉の先はあまり覚えていない
あたしは殆ど話を聞かずに片瀬さんの
声を聞き顔ばかりを見てた

好きな子と話せる幸せをあたしは
手に入れた

体育館に着いて茅野さんの所に行く

もちろん昨日の事は3人の秘密だから
余計な事は言わない

片瀬さんは少し緊張気味で茅野さんに
挨拶をしていた

あたしはそのまま制服を着替えて
アップに入る

今日はいつもより白石さんの声が大きく
聞こえたような気がした

アップ後に全員集められて
茅野さんから提案もあり、そろそろ
あたしら1年も練習に参加する事が許された
2年生との練習試合
しかも3年の先輩方が見てる前で


でもあたしにとっては願ってもいない
チャンスがまたしてもまわってくる

好きな子が見学してくれてる時に
基礎練じゃなくて試合が出来るなんて

他の子らは緊張で吐きそうだと言う

多分キラキラしていたのはあたしだけだろ

そんな顔を茅野さんに見られて笑われた

真山さんは犬みたいだって

じゃあ犬のようにボールに喰らいつく

伊達に小1からバスケやってないんだ


あたしの両親は元バスケ部同士の恋愛結婚

大学で父親が先輩で母親が後輩だったって
聞いていた

そこはキャプテンとマネジャーだろと
あたしは密かに思ったけど
プレイヤー同士でくっつくのも
よくある事なんだって

そんな両親から生まれたあたしは
小さい頃からバスケ漬けだった

学校のクラブも学校外のクラブもバスケ

休み時間だって上級生に交じって
バスケばかりしていた

なのにまだあたしの身長は155しかない

2年生はみんな160を超えてる人ばかりだし
茅野さんにいたっては170近かった

背丈で負けるとわかっていたって
やってみなければわからない

あたしはひたすら動いてパスを貰いに
走った

こないだやらせてもらった
1年生同士の試合ではない



先輩に渡るボールをカットしまくって
ひたすらボールを繋いだ


本当は自分で全部シュートを
決めたかったけど
その方がカッコいいし、でも

そんな自己中なバスケは学校じゃ通じない
ひたすら周りを見てチャンスに繋げる
それは前に教えてもらった

他の人に比べて背が低いあたしに
出来る事はただそれだけだった


まぁ、結果は見なくてもわかるけど
惨敗したって話です

でもあたしのプレーを見て
先輩らの顔が変わっていったのはわかった

白石さんは舞台上から男子そっちのけで
しかもちゃっかりと見学している
片瀬さんの横に座って
あたし達の試合を見ていた


あたしはと言うと
この日初めて片瀬さんと一緒に帰る

バスケがわからない片瀬さんは
横に座った白石さんの解説付きで
あたしらの試合を見ていたそうだ


真山さんすごいんだね!白石さんが
ずっと真山さんの事褒めてたよ!

あたしは白石さんを通して片瀬さんに
褒められまくる

でも片瀬さんがバスケ部に入る事は
なかった

背は伸ばしたいけど、あんなに
ハードだなんて思わなかったそうだ

でももし行けるならマネジャーを
やりたいそうだ


あたしは部長に伝えておくからと
片瀬さんとバイバイして家につく

さっきまで、本当にもさっきまでは
片瀬さんに見られたくて
コートに立っていたはずなのに
1つしか年の変わらない先輩に
ボロ負けした事の方が頭に残ってる
一緒に帰れて嬉しいはずなのに
なぜ廊下を歩いた時の気持ちには
ならなかったのか

その日から片瀬さんとはLINEを
するようにはなった

白石さんはというと上手く片瀬さんの
懐に入れたようだ

その恋愛相談は唯一接点のあるあたしが
受ける事になるけど
でも嫉妬する事さえなかった

夏休みが終わる頃
片瀬さんは白石さんに告られて
付き合う事になったらしい

でもあたしにはそんな事どうでもよくて

いつの間にか興味が片瀬さんから
バスケに移っていた

もちろんいつ見ても片瀬さんは可愛い

白石さんの話をしながら
顔を真っ赤にするのも可愛い

好きだと思ってた感情はどこにいったのか

もしかしたら人の物になったから
好きじゃなくなったのか


そんな事よりも夏休みに入った頃には
部活の1年生の数が半分になっていた

面と向かって言われた訳でもないけど
あたしには理由がわかっていた

所詮は中学生の部活
レギュラーにもなれなくて
ひたすら基礎練と応援と雑用と
そんな事を続けて、もしかしたら
一瞬でもコートに立てるんじゃないか
なんて、夢のまた夢
実際に3年の先輩でもコートに
立てない人もいるぐらい
そんな事もあってか片瀬さんの
マネジャー志望は賛成を受け
白石さんに片瀬さんとの接点がついた
だから2人は急接近出来て付き合えた

あたしはもちろんまた失恋した訳だし
想いを伝えないまま終わったはずなのに



教室で仲良しの輪に囲まれ質問をされる
片瀬さんの隣にいるあたし

片瀬さんに袖を掴まれ逃げられない

夏休み前なら多分頭の中はショートして
何も考えられなくなっていただろう

なのに今はなぜか友達の彼氏が
年上でカッコいい人だと思えるし
その話をしている片瀬さんも可愛い

こんな風に自然と消える恋心も
あるんだと知った中1の秋だった