あたし達女子バスケ部は合宿に来ていた
期間は一週間で今日は2日目
6時に起きて外周を20周、体育館に入り
筋トレ、体幹、ショットラン、シュート練習に
ドリブル練習、1on1 3on3、お昼休憩を挟んで
午後からは試合方式の練習を続けて
またシュート練習をする
練習後のミーティングと他にも細かい事が
色々あるがこれを1週間続ける

顧問がこの合宿所を選んだのは
顧問の両親が合宿所を経営してるからだ

うちの顧問はバスケをやるではなく見る専門
どうせ顧問をやらなければならないなら
大好きなバスケが良かったそうで

しかしむさ苦しい男子バスケには
興味がないんだそうだ

そんな理由もあって彼は顧問のくせに
バスケの指導が出来なくてもここにいる

あたし達にとっては口を出してこない
顧問の存在は本当にありがたかった

あたしと副部長の律は中学時代からの鉄則を
無くすために3年が来なくなった
夏休み前に2年だけでミーティングをした

まぁするほどでもなかったみたいだけど

この高校でもそんな鉄則があったのは
あたし達のかなり上の代の人がこの高校の
女子バスケ部にいたからであって
他の中学から来た子達は従うふりをしながら
上手い事やっていたみたい

そもそも部活内で仲良くしてはならない
なんて意味がわからないと、あたし達と違う
中学出身の子達は言った

なので誰の反対も受ける事なく
そんな何代も続く部の鉄則は最も簡単に
姿を消したのだ

それが形に表れたのは合宿前の練習中
涼がプレイスタイルを元に戻した時だった

試合が終わってコートから上がる涼の背中を
みんながバシバシと叩いていった
先輩だけではなく1年も同じく涼の背中を叩く

そんな光景を今まで見る事がなかったので
あたしにはそれが凄く新鮮に見えて
新体制への兆しは良好だと思えた

女子バスケ部の真山涼は1年生で
基本的に物静かな性格をしている
誰かと談笑しながら部活をする子ではなく
課せられたメニューを黙々とこなし
言われた事を淡々とこなす

涼の身長は中学の時からグングンと
伸び始めて、今では174cmと部活内で
2番目に高い、なのにスピード力や
瞬発力、シュートの正確性や周りを
見る判断力は部の1番を誇り
今はエース級の存在だった
部長のあたしでさえ涼には敵わない

しかし涼は中学1年の時に先輩から言われた
アドバイスを忠実に守り続けて点を取らない
アシストスタイルを高校になっても続けてた

そんな時あたしと律の幼馴染でもある
男子部元部長の太一は遊びと称して
涼のスタイルが作り物だと言う事を
みんなに見せつけた

あたしは涼のスタイルを元に戻す事にした

攻撃スタイルに戻した涼はそれでも
淡々と笑顔を見せる事なく練習をこなしていく

別に人見知りでも1人でいたい訳でもないし
性格が悪い訳でもない、逆に良すぎて困る

辛い仕事や面倒くさい仕事は自ら率先して
やるし、先輩への配慮や同期への気配りも
忘れないとてもいい子だった

それに加えて整った顔立ちに引き締まった体
中学の時は長かった髪をばっさりと切った
その面持ちはまるで男の子のようだった

普段は寡黙で優しい涼が試合中になると
キレキレの攻撃スタイルに変わったために

そのギャップにやられた他の子達は
ある意味、彼女を見る目が変わってしまった


練習を終えた合宿2日目
食堂で今日も涼はあたしと律以外の
2年の女子に周りを囲まれている

今まで絡めなかった分を取り返すかのように
次々に質問してくる子達に受け答えしながら
淡々と食事を進めていた

律はその光景を猿山のボスに群がる
メス猿だと言うのであたしは味噌汁を
噴き出すところだった


芽衣大丈夫?w

だ、大丈夫‥上手い事言うけど
猿山のボスはひどくない??

真山さんには悪い言い方になるか?w
でもみんな楽しそうだよねー
あれだけ元気あるのなら明日のメニュー
もう少し増やしても大丈夫かもねーw

そういって律は1年生に笑いかける
律はいつも笑顔なのだが毒を吐く時も
笑顔なので本当に怖い

そんな律に見られた涼以外の1年生は
プルプルと震えていた

でもよかったね
これであの子らと部屋も一緒になってたら
合宿中に真山さん死んでるかも‥

縁起でもない事言わないでよ、律
でも、ここまで露骨に変わられると
何を言っても無駄なような気がするけど

去年の合宿は広い宴会場に布団を敷いての
雑魚寝だったのに今回は顧問のご両親の
ご好意で部屋を2部屋とってくれていた

1年は5人なのであたしと律と同じ部屋だ
今回はあたしが仕組んだのではなく
律が1年生達に少しでも言いたい事が
言える環境をあげたいとの配慮だった

食事を終えてから一旦部屋へと戻る
合宿所には他のお客さん達もいるので
入浴の時間は決められている

その時間までは部屋での待機となる
涼はそのまま2年生の部屋へと
連れて行かれていた

あたし達は部屋で1年生と談笑する
なるべくこの合宿中にコミニケーションは
とっておくべきだと思っていた

手元に置いていた携帯が通知を告げる
あたしは電話をしてくるといって部屋を出た


向かったエレベーター横の非常階段を
開けると涼が振り返る
涼はあたしの顔を見てすぐに笑顔になる
涼の隣に座り話しかける

どうしたの?あの子達に何か言われたの?

いえ何も言われてないですよ
ただ2人になりたかっただけです
ダメでしたか?

そう言いながら首を傾げてあたしを覗き込む
彼女の無意識に繰り出される攻撃は
見事にあたしの胸を撃ち抜いていく
顔を崩さないようにするだけで
今のあたしは精一杯だった

ううん、ダメじゃないよ‥

まだお風呂まで時間ありますよね?

うん、あと30分ぐらいかな?

時間を聞いて涼はまた笑顔で
あたしを攻撃してくる

他の女子達をあんな目で見ていたにも
関わらず、涼のギャップに1番弱いのは
あたしだったりする

〈他の子にこんな笑顔見せないから余計‥

あたしは今隣にいる真山涼と付き合っている
部活の後輩な上に女の子同士だ

あたし自体はそんな偏見も何もない
好きならば性別なんて関係ないと思ってる

でもそんな事を周りに言える訳もない

絶対に秘密だし、こんな風にコソコソと
2人でいる所を見られたら何言われるか
わかったもんじゃない、でも
そんな心配事も考えられないくらい
今は涼に握られた手が嬉しかった


あれはちょっとひどいよね
注意した方がいい?

そうですね、あたしばかりとコミニケーション
とっても意味ないですしね

コミニケーションね‥
〈明らかに別目的に見えるけど

部屋には何て言って出てきたんですか?

ん?電話してくるって言ってきたよ

じゃあもう戻らないとだめですね
そう言って涼は手を離して立ち上がる

うんそうだね

あっさりと離された手に寂しさを感じながら
立ち上がって非常口の扉に手をかけた

あたしが先に戻った方がいいですか?

どっちでも大丈夫だと思うけど
涼はなん‥

開きかけた扉は涼の手に寄って閉められる

部長としての威厳と手が涼を自制させる

だめ!合宿中だよ!
少し小声で涼に注意する

あたしに口を押さえられながら
涼は目で不満を訴えてくる

こういう時の涼はいつもとは違う顔になる
どんな顔なのか聞かれたら
上手く説明は出来ないんだけど

涼は自分の口を塞いでいたあたしの手を取り
悪い事を促すかのように耳元で囁く

‥そんな顔で言われても怖くないですよ

今の涼には部長の威厳なんて通じないみたい

ましてやあたしの自制心なんて
好きな人の前ではあってないようなものだ
現にこうやって涼を受け入れてしまってる

〈こんなの覚えちゃったら無理に決まってる

顔が離れて照れたように笑う涼を見たら
拒否出来る理由なんてある訳なかった