ー茅野さんの事が好きなんですー


その言葉は静かにはっきりと聞こえた
だからあたしは思わず涼に抱きついてしまった

夢か現実かわからなくて腕に力を込める
涼の腕があたしの腰にまわされる

〈夢じゃない‥

更に涙が溢れてくる


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テストが返ってきた
結果は上々だった

それもそうだ、あんなに勉強したのだから
テスト期間中は部活がない
普段なら部活に打ち込む事で
逃げれるのに
部活がないから逃げ場所がない
机に向かっていないと
どうにかなってしまいそうだった

そんなあたしに追い打ちをかけるかのように
初めて涼からLINEがくる
あたし1人に対して
しかも一緒に帰ろうだなんて

喜んではいけない事だとわかってるのに
文字の1つ1つにさえ心が弾む


あたしが好きなのは女の子だ
しかも同じ部活の後輩だ

別に最初から女の子が好きな訳じゃない

そもそも今まで誰も好きになった事がない

中学2年の時初めて人を好きになった
それが真山 涼だった
元々そんなに深く考え込む性格ではない
だから涼を好きだと気づいた時も
そこまで悩む事はなかった

その時の好きは今より遥かに
軽いものだったからかも

だから伝える事はしなかった
高校でもずっと一緒に過ごせる
勝手そうやって思いこんでいた

なのに、涼は部活に入らないと言ってきた
その時初めて自分と涼の繋がりは
部活だけなんだと気づく

今まで好かれるような事など
一切してこなかったくせに
涼に好きな人がいるのもわかったくせに

あたしは卑怯な手を使って
涼を自分のものにした

まぁ冷静になって考えれば
おかしい事に気づくはず
女同士で恋愛なんて
あり得る訳がない

だから今日のこのLINEは
その現実をあたしに教えるためのものだろ
涼が好きなのはあたしではないことも含めて


授業が終わってすぐに教室を出る
自分で蒔いた種とはいえ
足がとても重く感じる

失恋するために好きな子に会いにいくなんて
こんな事なら想いを伝えなければよかった


門を出るとすぐに涼が立っていた

涼は何か考え込むような感じで
あたしとは目が合わない

〈どうやって断るか考えてるんだろな‥

あたしはそっと涼の前に立つ
手伸ばせば届く距離なのに

ふと顔を上げた涼があたしに気づく
顔を見た瞬間に泣きそうになった

あたし達は特に何か話す訳でもなく
そのまま歩き始める

急に涼が寄り道をしたいと言って
あたしを公園へ連れていく

その公園はあたしと太一と涼の
3人で初めて喋った公園だった

なんて憎い演出なんだろ
始まった場所で終わるなんて

涼はあたしをベンチに座らせる

早くこの場から解放してあげよう
ただの先輩、後輩に戻してあげなきゃ

そう思ったら言葉はすんなりと出てきた
明るくテンション高めに

そりゃ悩むよね
好きな人がいるのに
他の人から告白されたら
しかもその人は女だけど先輩で

そりゃ断れるはずがないもん

そのまま話を終わらせればよかったのに
あたしの口は止まってくれなかった

涼の好きな人は太一でしょ
本当に性格の悪い先輩でごめん
でも思っていた事を聞きたくて仕方ない

自分の予想が当たれば
なんとなく納得して諦められると
思ってしまったんだ

涼に反論を与えないスピードで
話続ける

1番耐えられなかった
テスト前の話をしようとした時


あたしの言葉を止めたのは

〈‥なに?‥今の‥


涼はそのままあたしに話かける

それはいつもの涼には見えなかった

あたしは何が起こったのか理解が出来ず
涼の質問に答える

涼は自分で質問してきたにも関わらず
あたしが喋る事を許さなかった

今度はしっかりとわかる
あたしは涼にキスをされている
それはさっきより深くて長く感じた

涼はあたしの推理が外れてると言った
太一を好きではないと
じゃあなぜ、あたしに‥
涼の好きな人があたしだって事?

いつの間にか距離が離れていた
あたしは思わず涼に聞く

涼は何も言わない

わからない
確証が欲しい
こんな風にほっとかないで欲しい

いっぱい言いたい事は頭に浮かぶのに
出てくるのは涙だけだった

涼はあたしの前にしゃがむと
頬に触れて涙をふく

そしてあたしに言う

あたしの事が好きだと

今日一緒に帰ろうと言ったのは
それを言う為だったの?
告白したのはあたしの方なのに?
聞きたい事がいっぱいあり過ぎて
言葉が出てこない

もういいや、もう全部後でいい
もう離れたくない