夏休みが目前に迫った平日

テストが次々と帰ってくる
あたしはなんとか全科目を平均点以上
取る事が出来て安心していた


これでなんとか部活に集中出来る



テストの期間中、部活は休みになっていた
次部活があるのは夏休みの初日

それまでにもう1つやるべき事がある

休み時間にあたしは茅野さんに
LINEを送った

お話したい事があるので
一緒に帰りませんか?

すぐに既読がつき
門で待ち合わせる事になる

帰り支度をしてすぐに教室を出た

この後の事を考えると
自分で言っておきながら
逃げ出したい気持ちになったが
今日こそちゃんと言葉するんだ


門の前で帰って行く子らを見ながら
中1の時、茅野さんから
呼び出された事を思い出す


あの時はただただ怖い先輩なだけだった
でも今は‥確かに怒ると怖いけど

〈好きなんだよな‥

茅野さんと話すようになったのは
男子バスケ部の白石さんがあたしに
同じクラスの片瀬さんと接点を持たせて
欲しいとお願いされたからだ

その時あたしは片瀬さんが好きだった
だから白石さんの気持ちを利用して
片瀬さんと少しでも仲良くなりたかった


〈まぁ結局片瀬さんからバスケの事を
聞いてきてくれたから、すんなりと
部活見学に誘えたんだけど

片瀬さんが好きなはずのあたしは
片瀬さんよりもバスケに夢中になって
いつの間にか片瀬さんは友達になっていた


つまり好きな子といるより
バスケをしてる方が楽しかった

じゃあ今はどうなのか
もし、レギュラーになれたりしたら
あたしはまた茅野さんを
好きじゃなくなるのかな

もし、他の誰かに茅野さんを
紹介してくれと言われたら
あたしはまた仲を取り持つのか


茅野さんの横に男が立つのを想像した
この前自分が白石さんにされたように
男は茅野さんの肩を抱いている


体が急に熱くなってくる
頭に血が昇るのを感じる
自分で作りあげた想像の男にすら
茅野さんに触れて欲しくない

こんな気持ちになるのは初めてだ
なんて我儘な感情なんだろ
茅野さんに触れていいのは
自分だけだと思ってしまった

〈嫉妬?ヤキモチ?なんか違うけど

‥涼?

その声にあたしは顔を上げる
すでに茅野さんはあたしの目の前にいた
顔を見た途端、抱きしめたくなる

〈あんな想像するから‥

あ、急に呼びだしてすいません!

‥うん大丈夫

気のせいかなのか
茅野さんの表情は曇った感じに見えた

あたしと茅野さんはそのまま歩き出す

〈どーしよ、いざ言うとなると緊張する

このまま歩き続けると茅野さんの家に
ついてしまう

あたしは中学の時茅野さん達に連れていかれた
公園を思い出す

ちょっと寄り道してもいいですか?

あたしのその言葉に茅野さんはうなづく

〈やっぱり迷惑だったのかな‥

公園について茅野さんは白石さんが
座っていたベンチに座る

あたしは一緒に座るのが恥ずかしくて
立つ事を選んだ

座んないの?
あたしを見上げて茅野さんは言う

あ、大丈夫です

そう‥
また茅野さんは視線を落とす

〈やっぱり今日はおかしい

あたしが口を開こうとすると
茅野さんが話始めた

こないだの事なんだけど‥

はい

あれさ、やっぱり忘れてくれない?

そう言いながら茅野さんは顔を上げて
困ったように笑顔を作る

わかってはいたはずだ
もしかしたらからかわれてるだけかも
しれないと

‥なぜですか?

先輩の言う事だからイエスと言えば
いいだけなのに

‥涼がさ、好きな人教えてくれないから
ちょっとイタズラしたくなったの!


そうだよ
よく考えろよ
そんなに上手くいく訳ないじゃん
自分が好きな人が自分を好きだなんて
ある訳ないってわかってたはずだろ


‥冗談なんですか?

うんごめんね!びっくりしたでしょ?w

はい

本当にごめんねー
もしかして悩んだりした?w

はい

茅野さんは凄く笑顔で話かけてくる

やっぱり?w
悪い事しちゃったなー

タチが悪い冗談ですよ

〈本当にタチが悪いよ

そうだね‥涼の好きな人ってさ?

はい

太一でしょ?

えっ?

ほら、片瀬さんの時さ涼は断らずに
太一に協力したでしょ?
なんでなのかなーって思ったんだよね
そんな面倒くさい事をわざわざするなんて
今思ったら納得出来るけど!w

高校だってさ、涼の実力ならもっと
バスケの強い学校に行けたはずなのに
うちの高校に来たし

部活もさ入らないって言ってたのにさ
急にやる気になったりしたから
あーやっぱり太一がいるからかなーって

それにこの前言ってた
好きなだけで満足なのって
友達の彼氏だからじゃない?


茅野さんは普段とは違う早口で
あたしの行動を推理してるかのように
話し始める


あたしは全く意味がわからなかった

なんでそんな話になるの
なんでそこで白石さんが出てくるんだ


あたしは茅野さんの言葉を聞きながら
心の底から何かが湧き上がってくるのを感じた
なのに体は一気に冷えていく


茅野さんはそのまま続ける

それにさ、テスト前の太一が提案した
遊びの練習あったでしょ?
メンバー決めしてる時太一に
肩抱かれてたでしょ?
あの時も

?!!


先輩がうるさいからって
黙れと怒鳴りつける事なんて
後輩のあたしにそんな事出来る訳がない


殴るとか突き飛ばすとか
そんな暴力をふるうなんて
もっと無理な話だ
つかそんな事しないし


あたしは自分の口で茅野さんを黙らせる

成功したようだ
茅野さんは見事に黙ってくれた


あたしはその距離のまま茅野さんに言う


今日はあたしが茅野さんを
呼び出したんですけど
覚えてますか?

それに何を勘違いされたのか
わかりませんが、白石さんの事
1度もそんな風に考えた事ないです
なので先輩の推理は大外れです

で?あと、なんでしたっけ??

あたしは笑顔で茅野さんに聞く
自分で黙らせて置いて質問するなんて
矛盾してるのは承知だ


茅野さんはあたしから
目を逸らして答える

‥た、太一に肩を抱かれて

嬉しそうだったって言いたいんですか?

あたしは茅野さんが言い終わらないうちに
言葉を重ねる

茅野さんはまたあたしと視線を合わす
何か言いたそうな顔をしてたので
またそのまま口を塞いだ

さっきよりも深く長く塞ぐ

距離が離れて声に出したのは
茅野さんの方だった

‥‥なんで?‥

そんな質問にもイラっとしてしまう
先輩に対してこんな態度が許される訳がない
そんなのわかってる
でもあたしは怒りを抑えきれなかった
先輩の質問になんか答えるつもりはない
自分で考えて悩めばいい
あたしの事で頭をいっぱいにすればいい

まぁ、その前に全部終わってしまったけど

茅野さんは下を向いて唇に手を当ててる
あたしはこの場をどう収束するか考える
でもどう考えたって答えは1つしか出ない


茅野さんの前にしゃがむ

ずっと俯いたままの茅野さんを見上げる
彼女は泣いていた
泣かせたのはあたしだ

あたしは茅野さんの涙を手で拭う
ハンカチかタオルを持ってればよかった

茅野さんの事が好きなんです

こんな時にだけずっと言いたかった言葉は
さらっと出てくる

茅野さんは何も言わずいきなり
抱きついてきた
あたしは支えきれずに
そのまま尻餅をつく

これはどういう意味なんだろ
また、からかわれてるだけなのか

首に回された腕が更に強くなる
あたしはそのまま彼女を抱きしめた