涼は次の日からバスケ部に入部してきた

中学の時のように日々淡々と基礎をこなす

律と太一はあたしが涼の教室に乗り込み
強引に勧誘して部活に入れたと
みんなから聞いたらしい

半分は本当で半分はウソだ

でも部屋にまで連れ込んだ時点で
無理矢理と言われればそうなのかもしれない

〈だから8割本当の2割が嘘か‥

しかしそんな噂なんてどうでもいい

涼と一緒に過ごす事が出来るんだから
でもあたしはこれで満足出来なくなっていた

あたし達の部はなぜか後輩達と
必要以上に仲良くなってはいけない
そんな鉄則があった

まあ理由はなんとなくわかるけど

女の子ってのはどうしても群れたがる
生き物で部活であってもそれは同じ

後輩と仲良くしてしまえば
絶対に派閥が出来てしまう

それを防ぐための策だそうだ

そんな部の鉄則さえあたしには
重い鎖に思えてしまう

涼に触れられた手の熱は
その鎖をいとも簡単に溶かした


テストを月曜に控えた土曜日

授業は午前で終わったので
2時まで部活となった

一通り練習を終えて帰り支度をする
1年生はいつもその後コートを使うのだが
今日はテスト前ということで
1年生達も帰る準備を始めてた

あたしは律に理由をつけて
先に帰ってもらう

そして涼にも何か適当な理由をつけて
一緒に帰る約束をしようと
出てくる1年生達を目で追う

しかし涼だけは一向に出てこない

静かに体育館の中を覗く
涼は1人でシュート練習を始めていた

そんな涼の姿に自分の卑しい気持ちが
途端に恥ずかしくなって
そのまま家まで走って帰った

自分の部屋で制服を脱ごうとしたのに

〈学校は閉まるのは5時だから
もしかしたらそれまでやってるのかも

その時間に合わせて
あたしはまた学校に戻ってしまう
体育館に向かうと鍵を閉める涼がいる

振り向いた涼はあたしにびっくりして
慌てふためいていた

その姿が可愛くて思わず笑ってしまう

帰り道涼はずっと腑に落ちない顔をしながら
あたしの後ろを歩いて訳を聞く


〈そんなにあたしと帰るのが嫌なの?
でもその言葉は声に出てしまっていた

あたしはただ涼といたいだけだから
他に理由なんてない

〈なんで部活やる気になったのかな?
あたしに言われたからだよね

涼はあたしの思った通りの理由を話す

あたしは茅野さんじゃないと嫌です

〈それは部長の話だもんね‥

わかってはいるけど少し寂しくなる
その寂しさは別の言葉を引き出す


彼氏はいるのか?
好きな人が出来たのか?

その質問に涼は彼氏はいらないと答える

あたしはまた邪な心が出てくる

好きな人も?

好きな人は‥います

〈やっぱりいるんだ‥


涼が好きな人はどんな人なんだろ?
あたしの知ってる人なのかな?
それとも他校の子?
もしかしたらそれって女の子だったりする?
そんな事万が一にもあるはずがない


好きでいるだけで充分だなんて
あたしには到底無理な話だ


あたしはその先に進みたいな‥


こんな言葉で伝わる訳ない


なら告ればいいと涼は言う
断る奴をぶっ飛ばすと言う


〈自分をぶっ飛ばすなんて
出来る訳ないのに



あたしが男なら即OKっすよ!

〈男ならか‥
そんな架空の話なんていらない‥
あたしが欲しいのは涼だ


こんな時にもあたしは先輩の圧力をかける

急に懐に入られた涼は
動かずにあたしを見つめる

断らないんだよね?

今自分が何を言われてるのか
わからないから
あたしの言葉を繰り返しただけ

でもあたしはそれで満足だった
涼はあたしを断らなかった


次の日
出来るだけ普通でいようと決めた

好きな人がいると言った涼に
あたしを断らせなかった

酷い事をしてるのは承知だ

でもそれでも涼を手に入れたかった

試合形式の練習を終えて
あたし達は休憩のためコートから出る

あたしは自然に涼を目で追う

〈涼の好き人って‥

そんな事を考えていると太一がいきなり
モップがけをする涼の頭を鷲掴みにする


あたしは血の気が湧くのを感じた

しかし涼は嫌がる様子もなく
されるがまま首に腕を回される
涼の手が太一に触れる

あたしは思わず叫んで駆け出していた

あたしが太一と話す間も涼はされるがまま
いつまでも肩を抱かれている
ふと涼の好きな人が太一なのではと思う

もしそうなら納得のいく事ばかり
なぜ涼はあの時太一の頼み事を断らずに
片瀬さんを連れてきたのか
しかも次の日だったよね?
それは太一に褒められたいからだったの?
この高校を選んだのも太一がいたから?
好きでいるだけで充分なのは
友達の彼氏だから?

急に部活に入る気になったのも
太一がいたからなの?

太一の挑発なんてスルーすれば
いい話なのに冷静さを失ったあたしは
律を強引に連れ出す

遊びのはずなのに
涼は太一と目で会話しながら
次々とシュートを決める

あたしがどれだけ想っていても
太一相手に勝てるはずがない
だって相手は男だから


こんなの勝てるはずがないんだ