「たたた大変です…!!!皇の旦那!」



―――結が、倒れた。



その知らせを湊が受けたのは、その日の除霊が終わりホテルへと帰る前

『お手洗いに行ってきます』

そう言って湊の前から彼女がほんのわずかいなくなった、数分後のことだった。


血相を変えて見に行くと、トイレの前で腰を抜かすようにして倒れ、へらへらと笑う結がいた。

周りには黒木組の男たちがあわあわと焦った様に群がっている。

彼女のすぐそばには、支える様に手を貸す蓮の姿も。


「だっ大丈夫ですか!? 結嬢!!」

「へ、平気です。すみません…ちょっとよろけてしまっただけで…そんな大袈裟な」

「…んなガリガリの身体してっからだ。ちゃんと飯食えよお前」

「ちゃ、ちゃんと食べてますよぅ…」



「お゛い」

「…!!!」



人混みの中に、湊の低く響く重低音ボイスが落とされる。

そこに居た全員がもれなく、ビクゥッ!!!と飛び上がらんばかりの勢いで驚いた。

いや、驚いたというよりは怯えたという方が正しい。

勿論結も身体を固くする。



恐る恐る顔を上げると、そこには鬼の形相の湊が。



「あ…あの、こ、これは…」

この状況を言い訳しなければという感覚に陥った結は、床にへたり込んだまま何とか口を動かそうとするが中々言葉が出てこない。

湊はそんな彼女の様子など無視し、結の腕をその大きなごつごつとした手で掴み立ち上がらせる。

そして、有無を言わさず結を担ぎ上げて黒木組を出ていってしまった。


残された面々は一様にポカンと、なんともマヌケな顔をしていたという。