もう夜十一時。

零時まで残り一時間だ。

「…皇」

背後の寝室から湊を呼ぶ声がする。

中に入ると、主人の柳洸太郎がベッドの中から、こっちに来いと手招きしていた。

そばには執事の峯もいる。

度重なる心労でげっそりとしており、声はガタガタと震えている。湊に負けず劣らず相当ストレスが溜まっているようだ。

「皇、お前はここにいるんだッ!私を零時までここで守れ!!もし私が命を落とすようなことがあれば…分かってるな!!!?」

「…はい」

ヒステリックにもなっている。
普段は大人しくこんなに叫ぶ人でもないんだが。

「頼みますよ皇。一応プロは集めましたが、正直なところ信頼できるのは貴方だけです」

湊の信頼は厚い。

この一週間、何度となく命の危機にさらされながらも洸太郎が生きていられるのは湊の功績だからだ。

湊は頭を切り替え、護衛に徹することにした。
霊能者やあの女子高生のことも忘れる。

(集中しろ…)

そんな事を考えているときに限って、会いたくない人間に会うのが何とも言えない世の常である。