たとえばモラルに反したとしても


 リビングに入って三好は首を傾げる。

「誰もいないの?」

「誰かいたら入れないわよ」

「そっか、そうだね」

 笑みを浮かべて自分の部屋のように当たり前にソファーに座る。

 少しだけ迷ってから桐華は冷蔵庫から取り出したアイスコーヒーをグラスに入れてローテーブルに運んだ。

「お姫様自ら運んでいただけるなんて光栄です」

 ふざける三好に神経が逆撫でられる。

 このまま無意識に手綱を取られたままでいい訳がない。

 退屈を紛らわせるために呼んだんだ。
 こいつの弱みを握っているのは自分なんだ。

 そう強く思い返して、桐華はわざとピタリと寄り添うように三好の隣に腰を下ろす。

 柔らかいソファーは沈み込んで予想以上に二人をくっつける。

 さっきシャワーを浴びたから短い袖のラフなルームウェアーに着替えてしまっている事を少しだけ後悔する。

 緩く稼働するクーラーの音がやけに気になる。

 直接肌に触れるスーツの感触が緊張を呼ぶ。

 グラスに浮かび始めた水滴が桐華の中の何かを急かしているようだ。


 ふわりと隣から香る煙草と香水の混じった香り。


 まるで隣にいるのが大人の男の人のような気になって、桐華は体を固くした。