その時、注文したカレーが届いた。

「ちょっとちょうだいよ」

「少しだけだからな」

そんな会話をかわしつつ、


「でも、専務の娘さんなら婚約破棄することないいじゃない」


(琉夏がそれでいいっていうなら)


「出世のためでもいいって言うならさ」


そこで琉夏の顔が一段暗くなったように見えた。


「そこだよ春香」

小声になり春香の耳元へ口を寄せて話す。

(ちょ……近いって。惚れてしまう……ん?、惚れてるからいいんか私は)



「宗教が、合わない?」


「そういうこと」



出世は確実、彼女の宗教に入るのも確実、
もし子供ができても教育するのは彼女。

「俺とは生き方が違う。だから破棄したんだ」


「そうだったんだ」


少しずつ冷めていくカレーを見つめながら2人はしばし無言でいた。


陽気な店員がお冷を持ってくる。

「お二人さーん、元気出してねー」

なまりののこる日本語の店員の明るさに、

春香はつい笑ってしまった。



そんな春香を見て、琉夏が一言。



「なぁ、約束って今も有効?」