「この件は僕に任されて欲しい。その…こう言った事に詳しい知人がいる。彼に相談してみようと思う」
 ルートヴィヒが了解すると言うより早く、テオドールは立ち上がり…アロイスを見下ろす。
「また、お隣のリリエンタール伯でしょう?貴方はいつもそうだ。今まではそれで、よかったかも知れないが、これから誰がこのルーネンベルク伯領を治めるのか、よく考える事だ」
 取りあえず、今回の件は自分と仲間たちで何とかする。吐き捨てるようにそう言い残して、テオドールは出て行ってしまう。
「申し訳ございません」
 どちらが貴族であるか分からない息子の態度を必死に詫びるルートヴィヒに、アロイスは優しく声を掛ける。
「気にしなくていい。彼が言った事は…正しい。ただ、もうフランツ…リリエンタール伯に頼る事はしない。それだけは、約束しよう。その事を、テオドールに伝えて欲しい」
「確かに、承りました」
 丁重に頭を下げるルートヴィヒを見送った後、アロイスはため息をつく。
「ああ、どうしよう」
 ルーネンベルク領主として、自分が対処しなければ。しかも早急に。で、なければ…テオドールが、昨晩のフランツたちと同じ目に遭いかねない。そう思い悩みながら、一先ず剣を取りに行こうと自室へ戻ったアロイスを待っていたのは…ゼノン。
「来い」
 彼女の顔を見るなり、ゼノンはその腕を掴む。
「何をする」
 当然の事に困惑と反発を覚えた彼女は、強い声でそう言いながら、自分の腕を引く。しかし、彼の力は強く、抜けそうにない。それでも、抵抗を試みる彼女に、彼は淡々と告げる。
「貴様は、我が妻になると契約を交わした。だが、それは未だ果たされていない」
 それを言われると、彼女はバツが悪い。
「そうだが…その、僕には領主としての勤めが残っている。第一、その話は死んだ後ではないのか?」
 言葉でも抵抗してみるが、言っている自分が誰よりも不利を自覚していた。そんな彼女を、彼は鼻で笑う。
「結婚と言うのは生者同士の契約だろう。領主の仕事に関しては、案ずるな。日中は、「ルーネンベルク伯アロイス」として生活させてやろう。だが、夜の内は我が妻として過ごして貰う」
「そんな生活をしていたら、死んでしまう…!」
 愛するフランツの為、フランツに幸せをもたらしてくれたユリアの為とは言え、随分軽率な事を言ってしまったと、彼女は後悔する。その瞬間、抵抗が緩んでしまった。すると、彼は彼女の腕を強く引き、胸の中に収める。彼女は彼の胸板を押してみるが…もう遅い。二人の体は闇に包まれ、魔界へと移動していた。
「ごめんね。実は、君が今抱えている問題を解決するには、早急に結婚をする事が必要だと思ってね」
「どう言う事だ?」
「少々長い話になるよ」