「そして、現在、サンスーシー王国の標的は、このシェーンブルン王国であると」
「未だ噂の段階だがね」
「なるほど」
アロイスが話した情報を、ヴィリバルトは地図に細かく書き込んでいく。
「それが、その……彼を見付けるのに必要な情報なのか」
その質問に、ヴィリバルトは顔をしかめる。
「奴は、魔物の中でも特に邪悪な精神を持っております。人間を食べるだけでは飽き足らず、人間の社会を壊す事に愉悦を感じるのです」
「それは、恐ろしいな」
前日に見たエーリヒの顔を思い出し、アロイスの背中に悪寒が走った。
「王宮などは特に狙われやすいので。特に、先進国や頭角を顕している国は危険です」
「ならば、我がシェーンブルン王国は関わりがないかも知れないな。哀しい事に、どちらかというと落ち目の国家だから」
「しかし、それもそれで用心が必要です。お気をつけ下さい」
一礼したヴィリバルトはコウモリの姿となって、サンスーシー王国の方へ飛んで行く。その様子をしみじみと見上げる彼女の背後に、突然、人影が現れる。
「全く恐ろしい男だ。エーリヒ・フォン・ブルトシュミット…」
「お?呼んだ?」
「ひぃ!?」
エーリヒ、本人だった。アロイスは悲鳴を上げ、縮み上がってしまう。
「あんた、やたらいい匂いがすると思ったら、人間だったのか」
彼は彼女の体に顔を近付け、不躾に匂いを嗅ぐ。
「や、やめないか…」
「昨日よりは、威勢がいいな。でも、未だ震えてる」
彼女の反応を見て、彼は楽しそうに笑う。その顔付きが全く無邪気そのものなので、彼女としては余計に気味が悪く恐ろしい。
「い、いいか。僕はこれでも、魔王の妻なんだぞ。僕に何かあれば、ゼノンが黙ってないからな」
なんて情けない言いようなんだろうか。思わず自嘲する彼女を見る彼は、純粋に驚いた顔をする。
「へえ、女王さままで人間なんだ。家の兄上の差し金?」
「ヴィリバルトは、関係ない。僕はゼノンと契約して、その対価として……結婚した」
それは、曲げる事の出来ない真実だ。しかし、こうして口に出して見ると…彼女は切ない気持ちになってしまう。本当に好きだと言ってくれる夫に、非道い暴言を吐いたような、そんな気分になる。
「まあ、あんた美人だもんなあ。なあ、指の先っちょとかでいいから、ちょうだい」
「い、嫌だ」
「痛くしないから」
「そう言う問題じゃない」
ニコニコと笑いながら、しかし、彼の目は獲物を視界の中央に捉えた獣と同じ。このままでは、食い殺されてしまう。ここは、ゼノンを呼ぶべきだ。そう思い、上着に忍ばせてある手鏡を取り出す。
「おー、面白いもん持ってんな。旦那からのプレゼント?」
素早い動きで、彼はそれを奪う。興味のあるような事を言いながら、その手鏡を思い切り地面に叩き付けた。それだけでは飽き足らず、足で踏み砕く。
「未だ噂の段階だがね」
「なるほど」
アロイスが話した情報を、ヴィリバルトは地図に細かく書き込んでいく。
「それが、その……彼を見付けるのに必要な情報なのか」
その質問に、ヴィリバルトは顔をしかめる。
「奴は、魔物の中でも特に邪悪な精神を持っております。人間を食べるだけでは飽き足らず、人間の社会を壊す事に愉悦を感じるのです」
「それは、恐ろしいな」
前日に見たエーリヒの顔を思い出し、アロイスの背中に悪寒が走った。
「王宮などは特に狙われやすいので。特に、先進国や頭角を顕している国は危険です」
「ならば、我がシェーンブルン王国は関わりがないかも知れないな。哀しい事に、どちらかというと落ち目の国家だから」
「しかし、それもそれで用心が必要です。お気をつけ下さい」
一礼したヴィリバルトはコウモリの姿となって、サンスーシー王国の方へ飛んで行く。その様子をしみじみと見上げる彼女の背後に、突然、人影が現れる。
「全く恐ろしい男だ。エーリヒ・フォン・ブルトシュミット…」
「お?呼んだ?」
「ひぃ!?」
エーリヒ、本人だった。アロイスは悲鳴を上げ、縮み上がってしまう。
「あんた、やたらいい匂いがすると思ったら、人間だったのか」
彼は彼女の体に顔を近付け、不躾に匂いを嗅ぐ。
「や、やめないか…」
「昨日よりは、威勢がいいな。でも、未だ震えてる」
彼女の反応を見て、彼は楽しそうに笑う。その顔付きが全く無邪気そのものなので、彼女としては余計に気味が悪く恐ろしい。
「い、いいか。僕はこれでも、魔王の妻なんだぞ。僕に何かあれば、ゼノンが黙ってないからな」
なんて情けない言いようなんだろうか。思わず自嘲する彼女を見る彼は、純粋に驚いた顔をする。
「へえ、女王さままで人間なんだ。家の兄上の差し金?」
「ヴィリバルトは、関係ない。僕はゼノンと契約して、その対価として……結婚した」
それは、曲げる事の出来ない真実だ。しかし、こうして口に出して見ると…彼女は切ない気持ちになってしまう。本当に好きだと言ってくれる夫に、非道い暴言を吐いたような、そんな気分になる。
「まあ、あんた美人だもんなあ。なあ、指の先っちょとかでいいから、ちょうだい」
「い、嫌だ」
「痛くしないから」
「そう言う問題じゃない」
ニコニコと笑いながら、しかし、彼の目は獲物を視界の中央に捉えた獣と同じ。このままでは、食い殺されてしまう。ここは、ゼノンを呼ぶべきだ。そう思い、上着に忍ばせてある手鏡を取り出す。
「おー、面白いもん持ってんな。旦那からのプレゼント?」
素早い動きで、彼はそれを奪う。興味のあるような事を言いながら、その手鏡を思い切り地面に叩き付けた。それだけでは飽き足らず、足で踏み砕く。
