リリスがメイドとして、違和感なく溶け込んでいる事に違和感を覚えながら、朝食を済ませたアロイスは、いつも通りに領内を見回る。しかし、全く普段通りとは行かず、領民たちから具合でも悪いのではないかと心配されてしまった。テオドールにいたっては、「これでも食え」と採りたてのじゃがいもが詰まった袋を渡して来る。それを持って、森の方へ行くと……ヴィリバルトを見掛けた。森へ向かって、話し掛けている。何をしているのだろうと、近寄ってみると…木々の奥に人影が。なるほど、隠れている人物と話しているらしい。その人物の髪が、金色に見えてしまい、彼女は怯えてしまう。だが、気のせいだと首を振る。そんな彼女に、向こうが気が付く。
「女王さま。ちょうど良い所へ」
「僕に、何か用かい?」
「人間界の国家について詳しくお聞きしたい」
「ああ、そんな事ならば……」

 まずはこの国、シェーンブルン王国。ルーネンベルク領やリリエンタールを含む複数の領地が集まって出来た連合王国だ。面積は凡そ七十八平方キロ、人口は約七百万人で、アリシア大陸の中央に位置している。北方は、サンスーシー王国、西方はトリアノン王国、東方をヘーヴィーズ騎士団領、そして南方をアリシア大陸最大にして最古の国家、アウレラ帝国に接している。
主に信仰されている神は、天空神ソラウス。政治体制は、現在のアリシア大陸で多く採用されている君主制だ。カナン神話のソラウス神を信仰している為、シェーンブルン王国国王は、アウレラ帝国内にあるカナン神話の総本山、モンソラア神殿で最上位の神官より冠を戴く。
優秀な音楽家を多数輩出している事が有名だが、貴族たちの横柄さもよく知られており、高名な音楽家は大抵、外国に移住してしまう。
 その移住先として多いのが、北方の隣国、サンスーシー王国である。現国王は芸術家として有名であり、特に音楽家としての評価は高い。その為、多くの芸術家を保護している。当然、自分たちを使用人扱いする貴族しかいない国より、独立した個人として認めて保護してくれる国を、音楽家たちは選ぶ。
その、彼らを支援している金の出処は、戦争だった。サンスーシー王国はアリシア大陸きっての戦巧者で、国王自ら戦線に立つ。指揮官としての才能にも恵まれているようで、数々の戦いにおいて勝利をおさめている。その結果、二十年前は十八平方キロだった国土面積が、今では三十二平方キロにまで拡大。勝利の秘訣は、出生や年齢、性別に制限を設けず、優秀な人間は重用した事。実際、ここ数年の戦いで活躍している将軍は女性、弱冠二十五歳のローザライン・ロッテンマイヤーだ。
そんな政策を進める事に、国民が抵抗感を抱かないのは、信仰している神が、戦と芸能の女神アーレシアだからだ。彼女を奉る神官は、アレーシアと同様に勇猛さと強さを持つ女性が美しいと説いている。また、アリシア大陸という名前の由来でもある為、アーレシアを信仰する我々こそが、アリシア大陸の覇者であるべきと考えている。
 そんなサンスーシー王国と密接な関係にあるのが、西方の隣国トリアノン王国とその南方にあるデル・ソル王国だ。双方、アリシア大陸を牽引する先進国として更に名高い。