その日を境に、「スポーツハントの経験がない奴は貴族じゃない」と言っていた二人は、「むやみやたらに生き物を殺すのはよくない」と主張を変えた。社交界では、二人に何があったのか分からない貴族たちの間で、奇妙な噂が飛び交う。
二人が同時に想う人があり、その女性はベジタリアンなど狩猟を嫌う人物だから。ただ単純に飽きてしまったから。おかしな思想に系統するようになったから。などなど。
何れにせよ、率先してスポーツハンティングやマナー違反を行っていた彼らが、行いを改める所かスポーツハンティングそのものを辞めてしまったお陰か……ルーネンベルク領へスポーツハンティングをしに来る人間は激減した。スポーツハンティング用地になっている土地に入って来る助成金額も減ってしまったが、死の女神に会える土地と言う噂が広まり、観光客が増えたので余り問題はない。領民たちは、飽きられない対策について、日夜話し合っている。アロイスも、時々混ぜて貰う。
 結果を報告すると、ヘルセレニアが難しい顔をしたが、ロサリウスは嬉しそうである。例えミーハーでも自分たちに興味を持つ人間が増えたのが嬉しいようだ。
「よかった。君の憂いが、一つ解決したようで」
 ゼノンもまた、満足げな表情をしている。それに応じるアロイスも、自然と笑みがこぼれた。
「ありがとう。解決出来たのは、君のアドバイスあってこそだった。感謝している」
「そんな大それた事はしていないさ。私は夫として、君の愚痴を聞いたにすぎない」
「それでも、いいや…それが嬉しかった。ありがとう」
 心の内をさらけ出せる相手がいる事は、非常に心強い。それを実感したアロイスは、無意識の内に、ゼノンの手を握っていた。
「そうか。ならば、何時でも好きな時に愚痴を言うといい」
「そう言う君の方こそ、遠慮なんかしないで、悩みがあったらすかさず僕に相談し給え。僕は、君の妻なのだからな」
「ああ、ありがとう」
 この時、ゼノンが曖昧に笑って誤魔化した理由を、アロイスは未だ知らない。