美しい光景に見とれている彼女を、後ろから彼が抱き締める。いきなりの事に驚く彼女の髪にも、青い光が浮かぶ。一面の青い光は、小さな花が発しているものらしい。それを、自分に付けてくれたと気付いたアロイスは、赤面する。
「君の前では、どんな光もくすんで見える…なんて、気障すぎるかな?」
「ああ、全くだ」
 余りにも恥ずかしかった為、素っ気ない態度を取る彼女だが…耳まで真っ赤になっていた。それを見た彼は、表情に苦笑を滲ませるが…どこか嬉しそうにも見える。
「本当の事なんだ。私には、君がそのように見える。私の世界で、一番美しい存在は、君なんだ…」
「君…さっきよりも気障になっていないか?」
「不快にさせたなら、済まないが…しかし、偽る事が出来ない真実なんだ」
 真摯なその言葉を突っぱねる事は出来ない。そう感じた彼女は、何とか声と素直な感想を絞り出す。
「僕は、その…別の男を助けて貰う条件で、君の妻になっている身だから、余り偉そうな事は言えないが…その、君は、他の男に惚れている女でも、魅力を感じてしまうほど、素晴らしい男性で…僕個人としては、僕を女性として認知し、魅力的だと言ってくれる男性がいると思うと、その…とても嬉しい」
 彼女がそう言い終わり、数秒後。彼女を抱き締めている彼の腕に力が籠もった。きっと、普通の女性であれば、痛いと言っていただろう。彼女は男として育てられた為、体も多少鍛えている。そのお陰で多少の圧迫感を感じる程度で済む。どうかしたのか、そう尋ねようと思った時…彼の声が耳元で聞こえた。
「キス…してもいいだろうか」
 彼女が、一瞬迷ったのは…未だ生半可な気持ちの自分に、儀式的な意味のない口付けをする権利があるのだろうか、と思った為だ。しかし、赤い顔で一心に自分を見詰める彼を見れば、迷いはどこかに消えてしまう。
「ああ、勿論だとも」
 必死に平静を装った彼女が、そう応じると…彼は嬉しそうに笑った。その美しさは、彼女が十五年間で見た物の中に勝る物がない。うっとりと、そう思っている彼女の唇に、熱い物が触れた。それが彼の唇であると悟った彼女は、ゆっくりと目を閉じる。
一体、どのくらいそうしていたのだろう。彼女には永遠で、彼には一瞬だった。ともかく、様々な儀式を終えた二人が…この場で漸く、真の夫婦となれたのである。
 光景のみならず、空気も美しいこの場所は、精神の疲労を拭えても…肉体の疲労までは洗い流せない。精神の疲労が失せたからこそ、肉体の疲労を自覚してしまった彼女は、彼の胸板にふらりと倒れ込む。頬が触れた鎧は、程良く冷たく…気持ちがいい。そんな彼女を優しく抱き締めた彼は、黒い髪に優しいキスを落とす。
「もう、眠るといい。後の事は、私に任せておけば、大丈夫だからね」
「ああ、ありがとう…」
 彼の言葉は、魔法のように彼女へ染み込んでいき…深い眠りへ誘う。
「おやすみ、アル」