「今日からお前は、アロイス=レジーニャ・モンストレイクだ」
「魔物たちの女王と言う意味よ」
「女王か……」
 所々に、赤い宝石をあしらったベルラインのドレスはその称号に相応しく、生まれて初めてドレスを着た彼女にも分かるほど仕立てのいいもの。今まで抑圧されて来た女性らしい願いがいっぺんに叶ったアロイスは、自分が伯爵である事をすっかり忘れていた。そんな彼女にゼノンは、手鏡を渡す。
「これは、人間界にいる君と魔界にいる私で会話する事が出来る、魔法の道具だ。持って行って欲しい」
 彼が発した人間界と言う言葉に、アロイスはハッとする。それを受け取った彼女は、ルーネンベルク伯の顔で礼を返す。すると、ドレスは三つ揃いに戻った。
「いいのかよ。結婚したばっかりだろ」
「いいんです。その為に予定を繰り上げて頂いたのですから」
 二人で、ロサリウスとヘルセレニアに礼を述べた後、一旦、魔王の城へ戻る。それから、人間界…ルーネンベルク領へ帰った。
「その身は、我が物。みだりに傷付けるな」
「ありがとう」
 魔王らしい彼に対する気持ちが和らいだのも、結婚のお陰だろう。そう思いつつ時間を確認すると、ルートヴィヒたちが来てから、十分も経っていない。どうやら、人間界と魔界では時間の進み方が違うようだ。
朝食も摂らず、領内へ行くと既に数人が襲われている。テオドールたちの善戦で、死者は出ていないらしいが…怪我人は多い。その騒ぎのお陰か、誰もアロイスが現れた事に気付いていないようだ。彼女は、咄嗟に物陰に身を隠す。何も教わってはいないが、直感で分かる。魔王の力はどのようにして使うのか。ただ、ゼノンの事…彼とキスした瞬間を思い出す。すると、あのドレス姿に変身する。
「おい、待て!」
 彼女から溢れる魔力に恐れをなしたのか、或いは生命力が最も溢れているだろうテオドールを誘き出す為か。化け物は森の中へ逃げて行く。テオドールは当然、それを追う。アロイスも、当然、追跡するが歩いては行かない。ドレスの腰に付いてるリボンがコウモリの羽根に似た形状になり、大きく広がる。それを使い、空を飛ぶ。
「あ」
 案の定、一人で森に入ったテオドールを、複数の化け物が囲んでいた。さしもの彼も、冷や汗を流す。その現場にアロイスは降り立つ。
「あんた、一体……」
「君は下がって居給え」
 いつものように、男のように話してしまった事を反省しながら、彼女は周囲を見回す。敵は、概算で凡そ二十人。それが一斉に飛び掛って来る。しかし、彼女がハイヒールの踵を踏み鳴らすだけで、化け物たちの体が吹き飛ぶ。地面へ叩き付けられた怪物たちの半数が黒い霧となって消えていく。それを見て呆然としているテオドールの背後に落ちた一体は、消えておらず…彼に襲い掛かる。彼女は、自分がドレス姿である事を忘れ、咄嗟に蹴りを繰り出す。
「な…!」