ヤンキー上司との恋はお祭りの夜に

「谷口さんっ!」


背中に声をかけた。

振り向いた彼が、急いで走り寄って来る。
その姿を見つめながらドキン…と胸が弾んだ。



「またな」


頬を包んだ手があったかい。

優しく触れる唇に気持ちが吸い込まれていく。





(ダメなのに……)


そっ…と目を閉じた。


好きになっちゃいけない人かもしれないのに、私の気持ちは彼に捕まってる。

かけ離れた身分の人かもしれないのに、それでも違うと信じたい。


スーツ姿の彼の背中を目で追いながら、キュン…と鳴る胸の鼓動を聞いた。

郁弥の時には感じなかった胸の痛みを、初めてこの身に受け止めた。


 
谷口のことが好きだ。
ホントの私を知って、好きになって欲しい。



(この間みたいに悲しい思いはしたくない……)



似合わないドレスを着るのはやめよう。

私らしく見える浴衣を着て、今度こそ自分らしい恋をするんだ。




(真綾と聖にも話そう)


ホントの私を知ってる友人達に、自分らしく見えるメイクや浴衣を教えてもらおう。



そう決めたら、居ても立っても居られずLINEを開いていた。
メッセージを打ち込む指が、興奮で少し震える。



『話があるの。今から会えない?』


忙しい真綾は無理かもしれない。
聖ももしかしたら用事があるかも。


ピロロン♫ と短い受信音が立て続けて鳴った。

二人からのメッセージを見てキュッと下唇を噛み締めた。