ヤンキー上司との恋はお祭りの夜に

谷口はこんな自分とどうして付き合おうなんて思ったんだ。

「気に入った」なんて言ってたけど、本気だとは思えない。

ホントの私を見たら幻滅する。

光らないホタルがただの虫であるように、着飾らない自分は平凡な顔した女なんだ。



「谷口さん…」


貴方が誰だとしても私はもう限界。
こんな茶番は終わりにして、いつもの自分に戻りたい。



「なんだ?」


眼鏡の奥の瞳が私を捉える。
その目に映ってる私は、ホントの私じゃない。



「話があるの」


勇気を出して言おう。


「話?」


瞬きした彼を見て頷いた。


「そうか。話なら俺もある」


「えっ…」


意外な言葉に驚く。


「でも悪い。今日はもう時間がなくて」


スーツの袖から覗かせた彼はジッ…と腕時計を見つめる。
キラリと光ってる腕時計は、どう見ても高価そう。


「仕事の合間で抜け出してきたから戻らないとヤバい。来週末に会おう。水天宮の夏祭りがある日に」

「あの花火大会の日?」


お盆の頃に行われる水天宮の夏祭り。
フィナーレを飾る花火大会は市民の一大イベントみたいになってる。


「俺、昼間はボランティアで露店やるけど夜は空くから会える。7時に迎えに行く。駅の表口で待っとけよ」


勝手に時間と場所を指定された。
行くとも言ってないうちにさっさと去ろうとしてる。