ヤンキー上司との恋はお祭りの夜に

谷口が副社長だと思ってたせいか、飼ってる金魚はあれのような気持ちでいた。



(違ったんだ……)


自意識過剰もいいところだ。


「私が掬いたかったのにな」


気持ちを奮い立たせてそう言った。


「よく言うよ。逃げられてばっかだったクセに」


間近で笑う谷口の顔を見つめる。
やっぱりどこかで会ったような気がする。


「それでも追いかけたかったの!」


背中を向けて離れた。

アクアリウムの展示は小さな水槽から壁いっぱいに広がるスクリーンみたいなのまでがあった。
最近流行りのコンピューター画像を映し出すようになってて、その前で暫く見惚れた。



「幻想的ね」


スクリーンに映し出される春夏秋冬の景色を眺めたまま呟いた。


「だろ?」


言葉少なく返ってくる。


「うん……」


そう言いながら胸が苦しくなってしまった。
谷口の前にいる自分は作り出されたこの映像を同じだ。

真綾の服を借りて濃いメイクをしてる。
アガリ症で吃りグセがあっても、ごまかして強気で接してる。


(こんな派手な服、似合いもしないのに着て……)


ドン引きだと言った郁弥の言葉を思い出した。
いつもの自分とは違う意味でギャップがあり過ぎてる。


(こんなの……間違ってる……)


谷口が副社長であってもなくてもカッコいいのとは違う。
今の私は顔を塗りたくって滑稽な衣装を着たピエロと同じ。