ヤンキー上司との恋はお祭りの夜に

谷口がホントに副社長だったらどうする。
私はあの人に随分酷い態度をとった。


(それこそ、左遷されるなら私の方でしょ!)


彼は私がここの社員だと知らなかっただけかもしれない。
名前を教えてるだけで、他のことは何も教え合っていない。

先々週会った時も仕事の話なんてしなかった。
付き合ってるわけじゃないんだからいいと、たかを括ってた。


(でも、これからはそうもいかないじゃん!)


郁弥の言ったことがホントなら、気軽に会ったりできない人だ。
悪態を吐くなんて、とんでもない立場の人間だ。

最初から最後まで吃るしかできない。
ウソ…。違うって言って……!




「はぁ、はぁ、はぁ……」



スマホを持つ手が震える。

谷口にメールを送ってみようかと思ったけど、恐ろしくて出来ない。


『副社長なんですか?』と送って『そうだ』と言ってきたらどうする?

あの約束も果たせないまま、二度と会うこともできなくなる。



(ウソだ。絶対に信じないっ!)



平気で両天秤にかけてた男の言うことなんて信用しない。
自分が地方支社に行きたくないから、部長と親戚の私を利用してるだけだ。


(そうだ!絶対に違う!)



無性に谷口の顔が見たくなった。

声が聞きたい。

聞いて違うと確信したい。



(でも……)


何だかそれも恐ろしい。


さっき聞いた声が谷口だったら私は…



私は………