(残念。見えないや)


まぁいいか…と目線を再び下に向けた時、耳に入ってきた声に驚き、もう一度前を見た。


「営業部第一営業課、友近郁弥、2年間の地方支社勤務を命ずる」


よく通る声が響いて、聞いたことある声に似ていた。

まさかね…と思いながら、やっぱり気になって背伸びをした。


「はい…」


ションボリと項垂れる郁弥のことは見えた。でも、副社長の顔はどうしても見えない。



(えーん、どの人ー!?)



社長の顔くらいは覚えてる。
だから、その近くにいるはずだと思うんだけど……



「以上で解散」


(ウソぉ。見えなかったし!)


ガックシと肩を落として部署へと戻ろうとした。
そこへ、ポン!と肩を叩かれて飛び上がりそうな程ビクついた。



「ケイちゃん」


振り向くと、そこにいたのは先週失礼なことを言ってきた男。



「何」


無愛想な顔して睨みつけた。


「そんな怖い顔しないでよ。この間は俺が悪かったって」


何をしおらしいことを言う。当然じゃないか。


「でもケイちゃんてさ、やっぱり副社長と知り合いなんだろう?」


「はあ?」


まだそれ言ってんの!?


「だって俺見たんだよ。寿神社の夏祭りの日、ステージ一緒に見てたところ」


「えっ?」


「何だか楽しそうにしてたじゃん。ケイちゃん男慣れしてなさそうだったのに、相手がうちの副社長に似てたから驚いた」