ヤンキー上司との恋はお祭りの夜に

鏡に映った自分の顔をマジマジと見つめる。

奥二重の瞼は深過ぎて一重みたいに見える。
先の丸い鼻はお団子みたいだと言えば言えなくもない。

吃ってばかりいる唇は小さくて薄い。
ぎゅっと噛む癖があるせいで、下唇の下が赤い。


(可愛くなんかないよ、ちっとも)


谷口の目はどうかしてる。
実際の私を見れば、そんなふうには思わないはず。


ショボくれて部屋に戻れば、昨日会った男からメールが届いてて。


『昨日はすまなかった。今度は俺が払うから』


ただのヤンキー男にしては礼儀正しいこと。
これに対して、どんな答えを出せばいい。



『昨日は楽しかったです』


ダメダメ!これじゃいつもの私だ!


『次はヨロシクお願い!』


うん。これなら許せる。


送信ボタンを押してホッとする。
削除するどころか文字を交換してるじゃないか。



(優柔不断すぎるっ!)


我ながら情けなくなった。
でも、谷口のことが頭から離れなくなってる。



(もう……絆され過ぎもいいとこだ……)


ボスッとベッドの上にうつ伏せる。

記憶の中に留まってるのは、白馬に乗った王子様のようなヤンキー。


笑ってる顔が子供みたいに嬉しそうだった。
見てるこっちまで楽しくなって、夢みたいな時間を送った。



『今度来たらあの観覧車に乗ろうぜ』


光の輪を指差す谷口の言葉に『うん』と頷いた。
躊躇いもなく『ホントよ』と囁いた。