メニューを返しながら睨んでる。
予約もなしに来たくせに態度デカいんだ。


「はいはい。じゃあまた後で」


ゴールドのピアスを揺らして羅門という人は厨房へ戻った。
もう一人の男性と二人で厨房を賄ってるみたい。

谷口は何も言わず、窓の外を眺めてる。
この店に連れてきたことをどことなく後悔してるような雰囲気。



(私が吃ったから?)


モテそうな彼をガッカリさせた?
私を誘ったことをしまった…と思ってる?



(でも、仕方ないじゃん。これが私だもん……)


落ち込むような顔しないでよ。
こっちが余計に惨めじゃん。


悲しくなって外を眺めた。
遠くに見える海の色は、さっきよりも茜色に染まりかけてる。


(まるで吃ってる時の私の顔色だな…)


何を見ても落ち込む。
こんなふうに思うくらいなら、誰とも付き合わない方がいい。


谷口とは無言のまま食事した。
羅門という人が作ったビーフシチューは、お肉がトロットロでとても美味しかった。



「また来てよ」


店の外まで見送ろうとする羅門さんを谷口が止めた。
車のキーロックを外され、やっと帰れる…とホッとした。


カーステレオからは静かなジャズのメロディーが流れてる。
淡々と刻まれるリズムに耳を傾けてると光の洪水が目に飛び込んできた。



(……えっ?何!?)


思わずドアの向こうを見つめた。遊歩道沿いに作られたミニ遊園地が、色鮮やかな光に包まれてる。